2020 年 40 巻 2 号 p. 75-83
【背景】慢性的な低炎症状態として特徴づけられる肥満は,心房細動発症のリスク因子である.さらに,肥満患者での抗炎症性サイトカインインターロイキン10(interleukin 10,以下IL-10)の血中濃度低下が報告されている.【目的】肥満に伴う左房リモデリングに血中IL-10の低下が関連しており,IL-10の補充でそれが抑制される,さらにIL-10ノックアウト(KO)マウスでは肥満に伴う左房リモデリングが増悪する,という仮説を証明する.【方法】8~10週齢の雄野生型(WT)マウスとIL-10KOマウスを12週間の通常食(NFD)負荷,高脂肪食(HFD)負荷の2群に分け,さらにそれぞれのHFD負荷群にIL-10を投与する群も加え,計6群を作成し評価・解析を行った.【結果】WT+HFD群において,体重,脈拍および空腹時血中インスリン濃度は有意に増加した.血中のIL-10は有意に低下し,炎症性サイトカインTNF-αは有意に増加した.さらに,左房の軽度線維化,マクロファージの浸潤,脂肪沈着を認め,心房細動誘発率の亢進,心房伝導速度の低下を認めた.HFD負荷で心臓周囲脂肪および心外膜脂肪量は増加し,アディポネクチンの発現は低下していた.脂肪中および心筋内には炎症性単球が増加しており,心筋には線維化成分と相まった脂肪細胞浸潤を認めた.HFD負荷により認められたこれらの所見は,両マウスにおいてIL-10の投与で抑制された.IL-10KOマウスにおいては,左房リモデリング,脂肪の炎症性変化がWTマウスと比較して増悪していた.【結論】IL-10は,肥満患者に認められる心房細動の進展を抑制するターゲットになりうる.