抄録
急性前壁梗塞患者の下壁誘導におけるST偏位の発現機序を解明するために, ST偏位と左前下行枝の走行との関連について検討した.
対象は, 左前行枝1枝病変による初回急性前壁梗塞患者26例である.左前下行枝による下壁の灌流域は, 右前斜位30°の左冠動脈造影像で, 左前下行枝が下壁を走行する部分の長さと前壁を走行する部分の長さの比 (inferior wall perfusion index; IWPI) から評価した.IWPIとΣST (II・III・aVF) /ΣST (V1~V4) は第1対角枝非閉塞例で有意の正相関を示し, 第1対角枝閉塞例で相関関係を示さなかった.第1対角枝閉塞例では, ΣST (II・III・aVF) はΣST (V1~V4) およびΣST (I・aVL) と有意の負の相関を示した.以上より, 下壁誘導のST偏位は, 第1対角枝が閉塞している例では, 前壁および側壁誘導のSTの鏡像変化を反映し, 第1対角枝が閉塞していない例では, 鏡像変化と下壁梗塞の範囲によって規定されると考えられた.