抄録
平成15年度の厚生労働省医療機関関係者陽性確保対策費等補助金看護職員確保対策特別事業による調査では,全国規模で一般産科病棟において産科単独で病棟運営が出来ているのは許可病床数501床以上の大病院の8.6%に過ぎず,その他は婦人科・内科・小児科などとの混合病棟であった.この混合病棟で看護管理者が危惧するのは,母子のケア不足と婦人科・内科の成人患者(ターミナルケアも含まれる)のもつMRSAや肺炎原因菌による新生児への院内感染であった.
そこで,そのような院内感染が存在するのかどうかをJANISの全病院サーベイランスに参加されたうちの27病院の感染症データから,生後28日以内の新生児期に限ってMRSA感染症データを抽出し,その病棟の背景とその要因を調べた.結果として① 2004-05年の2年間で37例(菌血症4例,肺炎1例を含む)の新生児MRSA皮膚感染症は全て混合病棟の8施設に観察されたが,産科単独病棟3施設では発症がなかった.② 2年間で2例以上発症した5施設は,年間分娩数が多く(年間500件以上),分娩数/看護職員数比が20以上であった.分娩後母子異室の時期のある施設では,発症が短期に集中することがあり,院内感染を疑わせた.③産科単独病棟の3施設(各施設の年間分娩数は814 (同室)・650 (3日異室)・250 (異室))では,母子異室が2施設あったが発症はなかった.
以上の事実は,JANISにおける全病院のサーベイランスデータから判明したものである.これは日本における院内感染の実情を把握する上でも,このサーベイランスシステムが充実してゆくことが,これからの院内感染予防対策における病院管理のあり方を調べる上で,行政上で非常に重要なことであることを証明している.現在NICUにおいては,予防対策の普及と共にMRSA感染は減少傾向にある.一方上述したように,少産少子のために日本の各地域において産科病棟は集中化を必要としてきている中で,MRSA感染症の新生児への波及が脅威となってきている.そこでは地域の集約化の要望に合わせる一方,産科病棟は健康棟として運営されることが基本である.産科の混合病棟体制は,先進国の中では日本にしかなく,周産期医療体制としては早急に改善される必要がある.