抄録
近年、精神病性障害の発症ハイリスクを想定したアットリスク精神状態(At-Risk Mental State:ARMS)の概念が提唱され、それを用いた研究や臨床サービスが展開されてきた。ARMSの性質や経過、治療法に関する知見が蓄積され、それに立脚した診療ガイドラインが本邦を含む各国で策定されている。
しかし、研究の場を離れて日常的な臨床現場でARMSを扱うためには、依然として数々の障壁が存在する。例えば、専門的な診断基準の活用、つまり弱い精神病症状の強度・頻度の評価や、それに則ったARMSの判定には習熟を要し、一般的な臨床家がこれを行うことは難しい。また、非精神病性の症状と精神病症状との関係性の解釈、併存診断のあり方に迷う事例は少なくない。治療においては、顕在発症した精神病性障害に対するものとは異なるARMS独自の診療指針の理解が難しい。さらには、地域や施設によって、ARMSの診療のあり方に相違が生じている可能性も否めない。
そこで、第24回日本精神保健・予防学会学術集会では、「ARMS症例から学ぶ ~早期介入の灯光を目指して~」と題して、症例検討シンポジウムが催された。それらの課題について、具体的症例を通じて議論を行うことで、日々の疑問を解消し、診療のあり方の均てん化を促進することが目的であった。当日は2名の演者から症例提示と問題提起を受け、3名の専門家をコメンテーターに迎えて討論が行われた。本稿では、症例と討論の概要を報告する。