日本臨床救急医学会雑誌
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原著
地域における救急の現状把握および分析の重要性
―長崎市救急実態調査から―
井上 健一郎草野 栄郷橋本 孝来高山 隼人
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2010 年 13 巻 3 号 p. 294-302

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抄録

救急の円滑な受け入れ体制構築のためには地域の救急実態の把握が必須である。長崎市では1997年より実態把握と救急隊へ情報還元のために,救急車搬送された患者全例の確定診断,転帰などに関する調査を行ってきた。今回10年間の調査結果を経時的変化も交え検討した(長崎地区人口は07年現在52万人)。10年間の推移をみると内因性・外因性疾患の比率は2:1で変化はない。疾患群では脳神経・循環器・呼吸器・消化器・骨折はそれぞれ全体の8~10%であり,その比率はあまり変化していない。しかし,疾患別にみると上位3疾患は肺炎,脳梗塞,大腿󠄀骨頸部骨折であり,なかでも脳梗塞を除いた2疾患は増加が著しい。一方,重症多発外傷,胸腹部臓器損傷はそれぞれ年間20~30件,30~40件であり,あまり増減はみられない。年間総搬送数は12,800件から18,200件に増加しているが,入院と外来の比率(入院50%,外来のみ35%)は変化なく,軽症者の増加というより高齢者の増加(33%→47%)が搬送増加の主因と考えられる。今後高齢者に多い疾患は加速度的に増加すると考えられ,これらの状況に応じた地域の医療整備が必要である。また,救急実態調査は地域の救急体制構築のための基礎的資料として有用と考えられ,それぞれの地域での確立が望まれる。

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© 2010 日本臨床救急医学会
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