2012 年 15 巻 5 号 p. 645-651
救急医療の崩壊が危惧されている現在,医療の質の確保と医療資源の適時,適正活用を図ることが急務である。そのためには,昭和52年から全国の自治体ごとに順次導入された救急医療情報システムが,救急患者受入の円滑化を図るという本来の役割を適切に担い,機能する必要がある。全国の救急医療情報システムの運営状況については,平成21年度および22年度の厚生労働科学研究での調査によると,とくに消防機関(救急隊)に活用されていない地域が多いことが明らかになり,その主たる要因は,医療機関の受入れ可否情報の鮮度の欠如であった。その対応策として,愛知県では,消防による救急医療情報システムの活用を念頭においた救急搬送情報共有システム(ETIS)を開発し,平成21年度から消防本部での実践に導入し,現在愛知県内の36消防本部のうち22の消防本部で使用されている。ETIS導入後,現在までに得られた知見および検討結果は,消防機関に従来ほとんど利用されなかった愛知県救急医療情報システムが利用されるようになったことである。その要因は,救急隊による現場からの搬送先医療機関の繁忙状況を救急隊員による搬送履歴の入力結果により検索できること,管轄内・外の医療機関の救急車の搬入状況がわかるようになり, さらに遠隔搬送の比率,重症度別の搬送実績などが,消防本部別にも把握できるようになったことである。本稿において愛知県で導入したETISを紹介し,その運用実績の一部を検討したので報告する。