2022 年 25 巻 4 号 p. 727-730
患者の終末期に対する考え方や価値観が多様化するなかで,急変時に蘇生を希望しないケースが増加している。一方で,本人の意思に反して急変時に救急要請される事案も少なくない。今回,救急要請されドクターカーが出動したものの,救急搬送を行わずに家庭医に引き継いだ症例を経験した。大腸がん末期の87歳男性。意識障害により救急要請されドクターカー出動となった。医療スタッフ接触後に,余生を自宅で過ごすことを希望していたこと,延命希望がないこと,かかりつけ医である家庭医が看取る方針であることが判明し,病院へ搬送した場合本人の意思に反すると考えられた。かかりつけ医と相談のうえ,病院搬送を行わず自宅での緩和ケアを行う方針となり,医療スタッフは帰院した。患者の意思に沿った医療が行われるためにはリビングウィルがかかりつけ医と正しく作成され,それが家族内,介護,医療,消防に正確に共有されるシステムの構築が必要である。