2026 年 29 巻 2 号 p. 159-163
六価クロムは化学工業で広く用いられており,その中毒では強い酸化作用による腐食性障害と細胞毒性から,急速な臓器障害をきたす。症例は30歳代の男性。空調設備の防錆剤として使用されていた六価クロム化合物であるクロム酸リチウム溶液を自傷目的に経口摂取し,急性中毒を発症した。来院時より粘膜損傷と全身痛を認め,ジメルカプロールおよびアスコルビン酸の投与,血液透析・持続血液濾過透析などの集学的治療を行ったが,入院16時間後に多臓器不全と消化管出血,凝固障害により死亡した。血清クロム濃度は来院直後に1,590 μg/dLと著明な高値を示した。本症例では,六価クロムのもつ腐食作用による粘膜損傷,消化管出血,凝固障害の制御が困難であった。致死的な粘膜損傷を回避するための早期介入と綿密な凝固能の評価の重要性が示唆された。