2000 年 3 巻 2 号 p. 239-243
脳神経外科領域における深部静脈血栓,肺塞栓は近年増加傾向にあり,とくに肺塞栓は突然に発症し致死的結果をもたらす重大な合併症のひとつであるが,本邦ではいまだにその認識は不十分である。今回われわれは脳神経外科領域での肺塞栓の特徴を明らかにするために,過去7年間に経験した5症例について臨床的に検討した。平均年齢57.4歳で,全例が脳腫瘍症例であった。発症前に臥床状態であったものが3例,脳血管撮影後に2例が発症した。症状は呼吸困難が3例,2例は意識障害,ショック状態を来した。確定診断は肺動脈撮影,肺血流シンチにより行われた。早期治療にかかわらずショックに陥った2例は救命できなかった。脳神経外科領域では臥床やステロイド使用など肺塞栓の危険因子を有するものが多く,いったん発症すれば予後不良のため,常に本疾患の可能性を念頭に置き,予防対策を講じることが重要と考えられる。