日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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3 巻, 2 号
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総説
  • 丸川 征四郎, 切田 学
    原稿種別: 総説
    2000 年3 巻2 号 p. 195-207
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    急性呼吸不全に対する呼吸管理法について,最近の代表的な4つの研究課題を取り上げ解説した。①気管内ガス吹送法(TGI):炭酸ガス呼出を促進する効果によって,陽圧人工呼吸の一回換気量が軽減され気道内圧を低くできるので,人工呼吸による肺損傷を回避する手段として期待される。しかし,患者の生命予後を改善する効果は未確認であり,専用装置も未開発なので,患者や家族の同意と安全が保証できる条件が整わなければ用いるべきではない。②一酸化窒素(NO)吸入療法:欧米の多施設共同研究(成人)で生命予後を改善する効果はないと結論された。しかし,従来の治療に反応しない急性呼吸促迫症候群(ARDS)の低酸素血症改善や新生児遷延性肺高血圧症の改善などへの臨床応用が期待されている。③部分液体換気(PLV):肺胞レベルでの病理学的改善が期待される換気法であるが,臨床検討が少なく今後の臨床評価が期待される。④体位呼吸療法:腹臥位を中心とする体位変換が,ARDSにともなう下側肺障害の治療手段として注目されている。しかし,安全かつ効果的に行う方法は確立されておらず,多施設による臨床治験が望まれる。これら新しい治療法の開発は,単に動脈血血液ガス値の改善だけではなく,肺を保護しつつ病理学的な変化をも治療する呼吸管理の模索と考えられる。

原著
  • 髙橋 義浩, 佐藤 敏彦, 佐々木 浩, 松田 悌二, 佐藤 克則, 沼倉 明, 永井 大介, 稲葉 英夫, 渡辺 明
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻2 号 p. 208-216
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    視覚障害者に対する救命講習会を通じて,視覚障害者が行い得る心肺蘇生法のフローチャートと手技を考案したので報告する。視覚障害者が視覚にたよらず行い得る心肺蘇生法と現行の標準的心肺蘇生法との差異は,①傷病者を発見した直後に協力者を確保し,視覚障害者の処置着手前の不安点である周囲状況確認と処置全般のサポートを依頼する,②視覚に代わり,指先および臭気で口腔内の確認を行う,③視覚に代わり,手掌を用いて呼吸の確認や人工呼吸を行う,④人工呼吸は口対鼻人工呼吸法を第一選択とする,ことである。以上の内容を視覚障害者とともに検討し,それが実施可能であることを視覚障害者救命講習会で確認した。

  • ―長崎における救急医療情報システムの紹介―
    栗原 正紀, 井上 健一郎, 橋本 孝来, 牟田 博夫
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻2 号 p. 217-227
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救命救急センターが存在しない長崎市および周辺地域(人口約55万人)において,平成4年救急現場のネットワークともいえる長崎実地救急医療連絡会(救急隊員・医師・看護婦で構成)を結成,よりよい地域救急医療を目指し,種々の活動を行ってきた。とくに救急搬送患者についての確定診断や転帰に関する実態調査に基づいて,急性心筋梗塞・脳卒中・小児疾患についての応需体制の再検討を行うことで現場の連携が構築され,分散型救急医療体制から機能分担を明確にした二次病院主体型への方向付けがなされるようになってきた。平成9年9月,本連絡会と長崎市医師会・消防局との協議の結果,長崎救急医療協議会が発足,プレホスピタル・レコードと実態調査表を組み合わせた救急事務引継書の運用を開始した。1年間の運用経験をもとに(調査表回収率98%),長崎の救急事情について紹介するとともに,救急現場の連携の重要性について報告する。

  • 中村 郁香, 青木 光広, 小林 良三, 福田 充宏, 小濱 啓次
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻2 号 p. 228-234
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    救命医療において人工呼吸器は重要かつ使用頻度の高いME機器である。当センターでは,日常の人工呼吸器の保守管理を臨床工学技士を中心に,医師や看護婦が協調して行っている。今回,1993年1月から1997年12月の5年間に人工呼吸器に生じた異常を分析し,以下の結果を得た。①異常の内容は,換気量等の測定誤差,ツマミの破損や異音など,動作状態に影響を与えないものが大半を占めた。②二重に始業点検を行うことにより使用中の異常を軽減できた。③ほとんどの異常は院内で処理できたため装置の機能停止期間が短縮できた。今後は,異常発生時の現象,原因,処理方法などをさらに分析し,処理の効率化および安全教育の充実に努めたい。また,併設型救命救急センターにおいては,中央管理併用の個別管理により,現場の実情を把握したきめ細かい保守管理と,コストパフォーマンスを考慮した合理的な運用が行えると考える。

  • 清水 聡, 広間 文彦, 広瀬 裕二, 二階堂 修, 相馬 祐人
    原稿種別: 原著
    2000 年3 巻2 号 p. 235-238
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    過去14年間に経験した閉鎖孔ヘルニア10例について検討したので報告する。年齢は71歳から98歳まで平均85.3歳で全例女性であった。本疾患に特徴的な理学的所見であるHowship-Romberg signを術前に認めた症例は6例(60%)であった。入院から手術までの日数は入院当日から8日までの平均2.6日で,術前に正診が得られた症例は5例(50%)であった。術中所見では,発生部位は右側6例,左側4例で,嵌頓内容はすべて回腸で,小腸壊死を起こしていた症例は3例(30%)であった。ヘルニア門の処理は壁側腹膜縫縮6例,放置2例,マーレックスメッシュによるヘルニア門の開鎖2例であった。転帰は1例のみ死亡し,再発は1例認められた。さらに最近6年間に経験した5例について検討してみると,Howship-Romberg signの確認と骨盤部CT検査により正診率は100%と格段に向上した。高齢者にとくに多い本疾患を救急の場では注意しておく必要がある。

臨床経験
  • 根岸 正敏, 横江 隆夫, 飯野 佑一, 佐々木 富男, 國元 文生, 伊佐 之孝
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻2 号 p. 239-243
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    脳神経外科領域における深部静脈血栓,肺塞栓は近年増加傾向にあり,とくに肺塞栓は突然に発症し致死的結果をもたらす重大な合併症のひとつであるが,本邦ではいまだにその認識は不十分である。今回われわれは脳神経外科領域での肺塞栓の特徴を明らかにするために,過去7年間に経験した5症例について臨床的に検討した。平均年齢57.4歳で,全例が脳腫瘍症例であった。発症前に臥床状態であったものが3例,脳血管撮影後に2例が発症した。症状は呼吸困難が3例,2例は意識障害,ショック状態を来した。確定診断は肺動脈撮影,肺血流シンチにより行われた。早期治療にかかわらずショックに陥った2例は救命できなかった。脳神経外科領域では臥床やステロイド使用など肺塞栓の危険因子を有するものが多く,いったん発症すれば予後不良のため,常に本疾患の可能性を念頭に置き,予防対策を講じることが重要と考えられる。

  • 西本 泰久, 福本 仁志, 金原 稔幸, 大石 泰男, 筈井 寛, 川崎 隆士, 森田 大, 富士原 彰
    原稿種別: 臨床経験
    2000 年3 巻2 号 p. 244-250
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    症例:77歳女性,VVI型Pacemakcr(PM)植え込み後。胸が苦しいと訴え意識消失,救急救命士到着時心室細動(VF)のため除細動を行うも不成功。頻度:1996年1月〜1998年6月のCPAOA257例中6例がPM患者。除細動の問題点:Ⅰ.VFの判読上の問題点,①医療従事者がPMのスパイクを自己脈と誤認。②半自動の除細動機がVFを確認できない。Ⅱ.PM側の問題点,①PM会社が除細動に否定的。②PM手帳がなければ機種や設定が不明。③プログラマー(PRG)の常備がないため,緊急時にプログラム変更不可能。まとめ:救急現場ではPMに対して認識不十分。PMやPRGに緊急時の対応に関して考慮が必要。提案:①心臓ペーシング学会や循環器学会からの提言を日本救急医学会や救急隊に対して出す。②救急救命士教育にPMと除細動に関する項目を充実。③PM業界による除細動に関するガイドライン作成を求める。④PRGに関して改善を求める。

症例報告
  • 増山 守, 中瀬 有遠, 福田 賢一郎, 加藤 誠, 米山 千尋, 渡辺 信介
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻2 号 p. 251-254
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    比較的まれな鈍的外傷による胆囊破裂を経験したので報告する。症例は60歳,男性。自動車ハンドルにより腹部を強打して受傷し当院に搬入された。搬入時血圧は64/34mmHgでショック状態であった。腹部緊急CTにてⅡb型肝損傷および膵頭部に挫傷を認めたため緊急内視鏡的逆行性胆道膵管造影を行ったところ,主膵管に損傷を認め外傷性膵管損傷の診断のもと,緊急手術を行った。開腹すると胆囊頸部で穿孔しており,その部位より胆汁の漏出が認められた。また胆囊内には結石が数個存在した。胆囊を摘出し,胆囊管切離断端より総胆管内にアトムチューブを挿入して術中造影を行い,ほかに胆汁の漏出がないことを確認した。十二指腸を切開しVater乳頭より膵管チューブを留置した。術後はほぼ良好に経過し術後58日目に軽快退院した。

  • 阿南 英明, 八鍬 秀之, 蘆田 浩, 中村 三郎, 古谷 良輔, 佐藤 芳樹, 長谷川 英之
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻2 号 p. 255-257
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    腹部大動脈瘤切除・人工血管置換術施行6年半後に,縫合部に仮性大動脈瘤が発生し十二指腸へ穿破した1例を経験した。突然の吐血で発症しショック状態で搬送され,造影CT検査により持続性出血を認めた。自験例は救命できなかった。本症は臨床症状や既往歴から早期に本疾患を疑い診断後,急速にバイタルサインを安定させて緊急手術を行う必要がある。今後,心臓血管外科学の進歩とともに腹部大動脈瘤切除・人工血管置換術を受けた患者の増加が見込まれる。救急医療現場で大量消化管出血患者を診察する際に注意すべき疾患と考え報告した。

  • ─本邦報告例67例の集計検討を含めて─
    矢吹 輝, 石倉 宏恭, 弘津 喜史, 津田 雅庸, 中谷 健治, 田中 孝也
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻2 号 p. 258-264
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    Vibrio vulnificus感染症は救命医療が進歩した今尚,きわめて予後不良の疾患である。今回,V.vulnificus感染症の2例を経験したので,過去の本邦報告例67例の集計と併せて報告する。症例1は54歳の男性。症例2は49歳の男性。両者とも基礎疾患に肝硬変が存在した。感染経路として,症例1は経口感染,症例2は創部感染が原因と考えられた。感染経路に差異はあるものの,急速に進行する皮膚病変に加え,全身症状も激烈に増悪し,治療開始後24時間以内に多臓器障害により死亡した。わが国における発症状況は7〜9月の3か月間に関東以西の西日本で多く発症し,基礎疾患に肝硬変や糖尿病などを有する50〜60歳代の男性に多く発症していた。発症から4日以内に70%以上が死亡し,死亡率は60%ときわめて予後不良なため,患者救命のためには的確な早期診断および早期の抗生剤大量投与や外科的処置が治療上極めて重要であると考えられた。

  • ─重症熱中症7例との比較─
    鵜飼 勲, 道野 博史, 木村 眞一, 渋谷 正徳
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻2 号 p. 265-270
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    小脳症状の後遺症を来した重症熱中症例を経験した。症例は48歳の男性,高温環境で作業後,意識障害を来し当院へ搬送となった。経過中,肝・腎・呼吸障害・DICを来し,意識障害が遷延した。26病日には見当識障害と小脳症状を残して軽快し転院,その後見当識障害は改善したが,小脳症状の後遺症を来した。13,105,258病日のMRIでは明らかな小脳萎縮は認めなかった。続いて,本症例を踏まえ,過去10年間に当院で経験した重症熱中症7例について検討した。おおむね来院時直腸温が高いほど,多くの臓器障害を来す傾向を認めた。呈示した最重症例では小脳症状の後遺症を来したが,他と比較して遷延する意識障害が特徴的であった。過去15年間の本邦報告例においても,小脳症状を来した症例では意識障害の遷延を認める例が多く,重症熱中症の小脳症状は,意識障害の遷延に引き続いて起こることが示唆された。

  • 八田 健, 栗栖 茂, 小山 隆司, 梅木 雅彦, 木花 鋭一, 西尾 渉
    原稿種別: 症例報告
    2000 年3 巻2 号 p. 271-275
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    1990年より1997年までの間に入院を要した鈍的胸部外傷255例の内,4例が気管・気管支損傷であった。症例1:2歳7か月の女児,症例2:62歳男性,症例3:41歳女性,症例4:52歳男性であった。症例1-3は農業車による事故であった。症例1と2は右上葉気管支損傷と高度肺損傷を合併していたため気管支形成を断念し,右上葉切除を行った。症例3は左主気管支完全断裂のうえ,膜様部が気管分岐部まで裂けていた。術野を得るため大動脈弓下で気管テービングを行い,それを牽引することで容易に膜様部の縫合と主気管支を端々吻合できた。症例4はトラックの荷台に首を挟まれ,意識消失,四肢完全麻痺,窒息様呼吸で来院した。ただちに気道確保のため気管切開を行った。意識や麻痺が回復した2か月後に第3‐6気管軟骨輪を切除し端々吻合した。鈍的胸部外傷の4例を経験し,胸部手術により全例を救命した。

調査・報告
  • ─医療資器材を用いた応急処置に関して─
    谷川 攻一, 岡本 育, 益崎 隆雄, 田中 経一
    原稿種別: 調査・報告
    2000 年3 巻2 号 p. 276-283
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的・方法:医療資器材を用いた応急処置技術修得のための初期教育および再教育について,205名の救急Ⅱ課程/標準課程修了救急隊員を対象として58項目よりなるアンケート調査を行った。結果:初期教育;医師の指導を受けた者─バッグマスク46%,喉頭鏡58%,デマンドバルブ9.3%,人工呼吸器19.5%。教育方法;病院内実習を行った者―バッグマスク22.3%,喉頭鏡/人工呼吸器3%未満。ショックパンツ,自動式心マッサージ器では87.4%が救急Ⅱ課程/標準課程研修時に初期教育を受けていた。再教育;定期的に再教育を行っている者―バッグマスク58%,喉頭鏡27.6%,デマンドバルブ42.8%,人工呼吸器32.9%,ショックパンツ31%,自動式心マッサージ器23.7%。結論:医療資器材を用いた応急処置の技術修得の初期および再教育の充実が求められる。

論談
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