2000 年 3 巻 2 号 p. 265-270
小脳症状の後遺症を来した重症熱中症例を経験した。症例は48歳の男性,高温環境で作業後,意識障害を来し当院へ搬送となった。経過中,肝・腎・呼吸障害・DICを来し,意識障害が遷延した。26病日には見当識障害と小脳症状を残して軽快し転院,その後見当識障害は改善したが,小脳症状の後遺症を来した。13,105,258病日のMRIでは明らかな小脳萎縮は認めなかった。続いて,本症例を踏まえ,過去10年間に当院で経験した重症熱中症7例について検討した。おおむね来院時直腸温が高いほど,多くの臓器障害を来す傾向を認めた。呈示した最重症例では小脳症状の後遺症を来したが,他と比較して遷延する意識障害が特徴的であった。過去15年間の本邦報告例においても,小脳症状を来した症例では意識障害の遷延を認める例が多く,重症熱中症の小脳症状は,意識障害の遷延に引き続いて起こることが示唆された。