2001 年 4 巻 1 号 p. 12-17
全血中H-FABP迅速検出試薬(H‐FABP定性法)の虚血性心疾患における早期診断マーカーとしての臨床的有用性について,胸痛を有し心筋傷害が疑われる症例を対象に検討した。対照として既存の心筋傷害マーカーであるミオグロビン定量法,トロポニンT定性法およびCK-MB免疫阻害法を用いた。AMIを含む心原性疾患におけるこれらマーカーの陽性率および発症後時間と陽性率の関係を指標にH-FABP定性法の心筋傷害診断の評価をしたところ,以下の成績が得られた。AMIにおけるH-FABP定性法の陽性率は93.2%であり,他の心筋傷害マーカーに比し明らかに高値であった。この高い陽性率はAMI発症早期から認められ,他のマーカーでは十分検出できない発症後3時間以内の症例においてこの傾向は顕著であった。AMIが否定された心原性疾患においてもH-FABP定性法は高い陽性率を示し,これらの疾患では微小心筋傷害の可能性が示唆された。一方,非心原性疾患での陽性例は認められなかった。今回の検討でH-FABP定性法はAMIを含む心原性疾患で高い陽性率を示し,心筋傷害を高い感度で検出できる優れた方法であると考えられた。本法は検体として全血を用い,15分で判定できることから救急医療現場でpoint-of-care testing(POCT)としての応用が期待される。