2002 年 5 巻 3 号 p. 315-318
症例は50歳,男性。前医入院中に突然原因不明の呼吸停止を来し,救命処置を施行後,遷延性の意識障害が続くため精査加療目的のため,第7病日に当院高度救命救急センターヘ転院となった。来院時,著明な縮瞳や血清ChEの異常低値を認め,血中よリスミチオンが検出されたため有機リン中毒と診断した。第7病日のMRIではDWIでのみ両側大脳白質,両側内包後脚,脳梁に高信号域を認め,同領域の見かけの拡散係数(ADC:apparent diffusion coefficient)は低下していた。第22病日のMRIでは,前回DWIで認められた高信号域はほぼ消失し,T1強調像(T1WI)やT2強調像(T2WI)では明らかな異常所見は認めなかった。本症例における脳内病変は,AChの中枢神経系への分布障害が考えられたが,スミチオンは有機溶剤も含有されていることから,これらによる影響も否定できないものと思われた。