日本食品工学会誌
Online ISSN : 1884-5924
Print ISSN : 1345-7942
ISSN-L : 1345-7942
原著論文
噴霧乾燥および貯蔵過程における卵黄の変性度予測
中川 究也安達 修二半田 明弘
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 18 巻 2 号 p. 93-99

詳細
抄録

卵黄を噴霧乾燥する工程におけるタンパク質変性度の予測は,乾燥卵黄製造における品質維持に重要な課題の1つである.変性とかかわる現象は種々多様であり,変性度を1つの因子にて評価することは難しい.そこで本研究では乾燥卵黄の変性度を,加水した懸濁液の粘度,粉末の色彩度,加水した懸濁液の凝集粒子径の3つの観点から評価し,恒温,恒湿度の静的な条件下において測定した変性度変化速度を,噴霧乾燥過程にて進行する卵黄の変性の予測に適用することを目指した.まず,比較的変性度の低い噴霧乾燥卵黄を,飽和塩溶液を用いてそれぞれ相対湿度11%,59%,75%に保持させたデシケータ中で,3日間4℃にて平衡化させた.平衡化させた粉末試料は直ちにアルミフォイルでラッピングし,50,60,70,75℃にて一定時間恒温処理した.恒温処理後の試料は速やかに氷浴中で冷却し変性の進行を止めた.得られた粉末試料の色彩度,試料に一定量加水し作製した懸濁液の粘度,加水した懸濁液の凝集粒子径を測定した.測定の結果,温湿度に依存した変性の進行を確認できた.懸濁液の粘度,凝集粒子径については温度,平衡化湿度が高いほど変化が速くなる0次的な変化を確認できたが,色彩度についてはその動力学が異なることが伺えた.液卵黄を等量の水と混合し,入り口温度120,130,150℃,フィード流量50,70 mL/min,アトマイザ回転速度15000 rpmの噴霧乾燥条件により粉末を作製し,得られた粉末試料についても先と同様の分析を行った.操作条件の変更に応じて最終的に得られる粉末卵黄の変性度も異なっていた.変性度値の比較より,乾燥に伴う脱水による変性の進行に加え,装置内部の特異的な部位(アトマイザ,出口配管,製品コレクタなど)における品質変化が無視できないほど大きいことが予見された.静的な条件で求めた変性速度定数を用いた試算からも,低湿度の環境において一定の温度以上にて急激な変性速度の増加が予測でき,製品品質に大きなインパクトを与えていることが考えられた.

著者関連情報
© 2017 一般社団法人 日本食品工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top