卵黄を噴霧乾燥する工程におけるタンパク質変性度の予測は,乾燥卵黄製造における品質維持に重要な課題の1つである.変性とかかわる現象は種々多様であり,変性度を1つの因子にて評価することは難しい.そこで本研究では乾燥卵黄の変性度を,加水した懸濁液の粘度,粉末の色彩度,加水した懸濁液の凝集粒子径の3つの観点から評価し,恒温,恒湿度の静的な条件下において測定した変性度変化速度を,噴霧乾燥過程にて進行する卵黄の変性の予測に適用することを目指した.まず,比較的変性度の低い噴霧乾燥卵黄を,飽和塩溶液を用いてそれぞれ相対湿度11%,59%,75%に保持させたデシケータ中で,3日間4℃にて平衡化させた.平衡化させた粉末試料は直ちにアルミフォイルでラッピングし,50,60,70,75℃にて一定時間恒温処理した.恒温処理後の試料は速やかに氷浴中で冷却し変性の進行を止めた.得られた粉末試料の色彩度,試料に一定量加水し作製した懸濁液の粘度,加水した懸濁液の凝集粒子径を測定した.測定の結果,温湿度に依存した変性の進行を確認できた.懸濁液の粘度,凝集粒子径については温度,平衡化湿度が高いほど変化が速くなる0次的な変化を確認できたが,色彩度についてはその動力学が異なることが伺えた.液卵黄を等量の水と混合し,入り口温度120,130,150℃,フィード流量50,70 mL/min,アトマイザ回転速度15000 rpmの噴霧乾燥条件により粉末を作製し,得られた粉末試料についても先と同様の分析を行った.操作条件の変更に応じて最終的に得られる粉末卵黄の変性度も異なっていた.変性度値の比較より,乾燥に伴う脱水による変性の進行に加え,装置内部の特異的な部位(アトマイザ,出口配管,製品コレクタなど)における品質変化が無視できないほど大きいことが予見された.静的な条件で求めた変性速度定数を用いた試算からも,低湿度の環境において一定の温度以上にて急激な変性速度の増加が予測でき,製品品質に大きなインパクトを与えていることが考えられた.
エマルションとは,水と油のような互いに混ざり合わない2つの液体の一方が他方の液体中に準安定的に分散している状態を指し,食品,化粧品,塗料など幅広い分野で利用されている.油を連続相とした乳化によって得られる油中水滴型(W/O)エマルションからなる乳化食品としてはバターやマーガリンに代表されるように広く利用されているものの,水を連続相とする水中油滴型(O/W)エマルションに比べ詳細な研究データに乏しく,W/Oエマルションの製造工程における乳化挙動や製品品質に影響する乳化特性については不明な点が多い.
本研究では,オリーブ油を連続相としたマイクロチャネル(MC)乳化によるW/Oエマルションに作製に対する影響因子について,乳化挙動の直接観察に基づき実験的に検討した.種々の乳化剤を用いて乳化剤実験を行った結果,ポリグリセリン縮合リシノレートを用いた場合に均一性の高い液滴を作製できた.オリーブ油および種々の溶媒を連続相とした乳化実験から,連続相の粘度が高いほど液滴径が大きくなり,粘度の上昇に伴い1つの液滴形成に要する時間(液滴離脱時間)が長くなることを明らかにした.さらに,界面張力の時間変化に関する検討の結果,乳化剤が界面に吸着する過程は液滴形成過程に比べてはるかに長い時間を要するプロセスであることを示し,合わせて乳化剤濃度が液滴形成に及ぼす影響についても考察した.また,形状の異なる3種類のMC基板を用いてMC乳化を行ったところ,平均液滴径が約24 µmから90 µmにわたる均一な液滴を生成することができた.続いて,実際の乳化食品を模擬した検討として,分散相に乳由来成分を添加しMC乳化を行い,脱脂粉乳やホエイパウダーなどの添加により液滴形成挙動が変化することを示した.
これまでに,W/O乳化物における液滴形成過程を詳細に検討した例は少なく,とくに食品グレードの材料を用いた研究は情報が不足していた.本研究は,オリーブ油を連続相とするW/O界面の挙動についてMC乳化を通じて詳しく検討することで,食用W/Oエマルションの形成に及ぼす諸因子の影響について報告したものである.示された検討結果は実際の食品製造現場における様々な経験的制御因子を理解する上で有用な情報を提供すると期待される.