日本食品工学会誌
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解説
食品タンパク質をはじめとする生体分子の包括安定化技術に関する工学研究
今村 維克
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2020 年 21 巻 3 号 p. 95-111

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抄録

食品などに使用される生体分子の中には,その不安定性のため劣化の問題が付きまとうものが少なからず存在するが,それら不安定物質を糖からなるアモルファスマトリクスに包括することで乾燥時および保存時の物理化学的変化から保護することができる.筆者の一連の研究において,まず,種々の糖について凍結乾燥・保存時におけるタンパク質安定化作用およびそれらのアモルファスマトリクスの物理化学的特性を評価・比較した.糖類アモルファスマトリクスによるタンパク質安定化機構については,これまでに3つの仮説がそれぞれ提唱・検証されてきたが,筆者らは得られた実験結果に基づき,それらの仮説を矛盾なく組み合わせた安定化モデルを構築した.次に,凍結乾燥時におけるタンパク質安定化作用をさらに高度化するため,様々な物質の共存下で酵素水溶液の凍結乾燥を行い,凍結乾燥後における残存酵素活性を比較した.その結果,二糖と多糖の複合系,糖エステルなどのある種の界面活性剤,そしてタンパク質自身も高度なタンパク質安定化効果を有することを明らかにした.さらに,糖類アモルファスマトリクスによる包括安定化技術をO/Wエマルション中の油滴粒子およびナノ固体粒子の分散・包括に応用した.油滴微粒子,ナノ固体粒子とも糖類アモルファス内に均一かつ安定に包括することができ,凍結乾燥操作に伴う凝集および容器壁への脱落を最低限にできることを明らかにした.また,(アモルファス化により)糖が有機溶媒に飽和溶解度を大きく超えて溶解する現象を利用し,糖類アモルファスマトリクスに疎水性香気物質を分散包括することに成功した.

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© 2020 一般社団法人 日本食品工学会
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