日本食品工学会誌
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原著論文
機械学習によるE-noseとE-tongueを用いた日本酒成分の予測
下藤 悟松井 元子村元 由佳利森山 洋憲甫木 嘉朗上東 治彦
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2021 年 22 巻 1 号 p. 15-24

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抄録

日本酒は日本の伝統的な嗜好性アルコール飲料である.日本酒の品質の一般的な指標として,揮発性成分(酢酸エチル,イソアミルアルコール,酢酸イソアミル,カプロン酸エチルなど),グルコース含量,酸度,およびアミノ酸度が分析されている.これらの分析値を使用して日本酒の官能特性を明らかにするために,多くの研究が行われている[1-2].以前の報告では,日本酒を特徴付ける物理化学的特徴から総合評価を予測するために機械学習を適用した[3].その際に,とくに評価の低いサンプルでは予測精度が低いことが示された.そのため,総合評価をより正確に予測するためには,網羅分析のデータを説明変数に追加する必要があると考えた.

E-noseとE-tongueは網羅分析が可能であるといわれている.E-noseやE-tongueは,比較的簡単な操作で分析できる.しかし,複雑な成分を含む食品を分析する場合,成分間の相互作用によるノイズのために明確なデータが得られない可能性がある.E-noseまたはE-tongueでは測定できない成分がある場合,補足するデータを収集する必要がある.他の食品では,E-noseとE-tongueを組み合わせることで成分値の関連性を確認した多くの研究がある[5-8].しかし,日本酒について,E-tongueを使用した研究[9]はあるが,E-noseを組み合わせた研究はみられない.したがって,E-noseとE-tongueから得られたデータが日本酒の特徴を包括的に捉えていることを確認する必要がある.そこで,本研究は,日本酒の特徴をE-noseとE-tongueでどの程度捉えることができるかを明らかにすることを目的とし,E-noseおよびE-tongueデータを使用して,日本酒の主要な成分値の推定を行った.

日本酒の成分の予測には回帰分析法を適用した.純米吟醸の特徴を表す指標として酸度,アミノ酸度,グルコース,および9つの揮発性成分を目的変数として用いた.説明変数には,E-noseによって得られた99のピークデータとE-tongueによって得られた7つのセンサーデータを用いた.

回帰分析の手法として,一般的に使用される統計的手法である部分最小二乗回帰(PLS)を用いた.

E-noseおよびE-tongueデータを使用したPLSによる予測精度は,平均7.57 error%(成分値の範囲に対するMAEの割合)であった(表5).また,回帰分析手法に重回帰分析(MRA)と機械学習(サポートベクターマシン(SVM),ランダムフォレスト(RF),勾配ブースティング(GB))を使用することで精度が向上するのかを検証した.他の回帰分析(MRA,SVM,RF,GB)を適用することで,酸度とアミノ酸度を除くすべての成分の予測精度が改善された(表6).さらに,他の回帰分析を適用し,7つの簡易分析データ(Brix,pH,電気伝導率,OD260,OD280,簡易アルコール含有量,簡易グルコース含有量)を追加することにより,すべての成分値の予測精度が向上した.(error%の平均:5.04)(表8).また多くの成分で,GBを用いることで予測精度が最も高くなった.PLSのような線形回帰よりも機械学習で予測精度が向上した理由として,網羅分析や簡易分析では目的変数の成分を直接測定することはできないが,成分の相互作用を含む複数の分析値(複数のセンサー応答とピーク値)として把握しているためであることが示唆された.そのうえで,説明変数と目的変数の関係が非線形的な関係にあるために,GBでの予測精度が最も高かったと考えられる.一方,PLSを使用した場合,アミノ酸含有量の予測精度が最も高くなった.このことから,アミノ酸度については目的変数と高い相関を持つ説明変数が存在することが示唆された.また,グルコース含有量の予測精度が最も高かった説明変数は,簡易分析とE-noseであった.日本酒のアルコール類,エステル類,アルデヒド類のような揮発性成分は,酵母の酵素反応により生成される.その酵母はグルコースを代謝することで活動する.つまり,揮発性成分の量や組成を測定するE-noseのデータが酵母の活動量と関係のあるグルコースの含有量を予測することに大きく貢献できたためと考えられる.

以上のように,同一の食品に含まれる成分であっても,ベストな解析条件は成分の特性によって異なることがわかった.また,純米吟醸の成分値の推定において必ずしも機械学習が線形回帰よりも優れているとは限らないことが示された.そのため,回帰分析によって成分を予測する際には,複数の解析条件(用いる説明変数と回帰分析手法の選択)を準備し,試す必要があることが示唆された.

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© 2021 一般社団法人 日本食品工学会
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