日本食品工学会誌
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原著論文
スパゲッティの非等温調理過程におけるエネルギー消費
安達 修二小林 敬小川 剛伸
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2023 年 24 巻 4 号 p. 121-126

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抄録

地球温暖化が警鐘されて久しく,多くの分野でその原因となる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの放出と発生の抑制や使用エネルギーの削減に対する努力がなされている.食料の生産と消費においても同様である.世界の作物上位10品目の収量に対する気候変動の潜在的な影響が評価され,小麦の生産は今後減少すると予測されている[1].また,調理の過程で消費されるエネルギーは,製品のライフサイクル全体で消費されるエネルギーの多くを占める可能性が指摘されている[2, 3].このような状況から,環境に配慮した食生活を意味するエコ・クッキングの考え方[5]が提唱されている.このような努力にもかかわらず,地球の平均気温は上昇を続け,2023年7月27日に国連事務総長は地球温暖化の時代は終わり,地球沸騰化の時代が到来したと警告した.

パスタの調理過程で排出される二酸化炭素量は,原材料である小麦粉の栽培から消費の過程で排出される二酸化炭素の50%前後を占める[7].パスタの調理過程におけるエネルギー消費や二酸化炭素排出量を低減する調理器具や調理法の開発も試みられている[8].マイクロ波加熱によりスパゲッティを茹でる器具が開発され,通常の沸騰水中で茹でたスパゲッティと品質に大差はなく,マイクロ波加熱は調理時間が短いと報告されているが[9],エネルギー消費の観点での考察はなされていない.

そこで本研究では,常温の水に漬けたスパゲッティを,IHヒーターを用いて異なる電力レベル(4段階),すなわち異なる昇温速度で,茹でたときの含水率および破断変形‒破断力曲線を測定し,沸騰水中で茹でたときに食感がよいとされる乾燥重量基準含水率の範囲内の1.6 g-H2O/g-d.m.まで調理する過程で消費されるエネルギーについて考察した.なお,使用したIHヒーターの消費電力(ワット数)は電力計を用いて測定し,102,266,459および935 Wであった.

約5 cmに切断した直径1.6 mmの乾燥スパゲッティ(約50本)を1 Lの純水を入れた鍋に入れ,所定のワット数で加熱した.適当な間隔で試料を取り出し,そのときの水温と試料の含水率(図1)および破断変形‒破断力曲線(図3)を測定した.消費エネルギーはワット数に時間をかけて算出した.対照として,常温の水を沸騰させたのちに乾燥スパゲッティを投入する通常の調理法についても同様の測定を行った.

室温の水に漬けたスパゲッティを加熱し,含水率が1.6 g-H2O/g-d.m.になるまでの消費エネルギーは,IHヒーターの電力レベルが低いほど少なかった(図2).しかし,ゆっくり昇温させると,スパゲッティ内の水分分布が平坦に近くなると報告されており[12],最大変形のときの破断力は小さかった.すなわち,歯ごたえのない食感になる.一方,使用したIHヒーターの最大出力である935 Wで加熱すると,破断変形‒破断力曲線は通常の調理法による試料とほぼ同様であり(図3),類似した食感を示すことが示唆された.このときの消費エネルギーは通常の調理法によるそれの約60%であり,消費エネルギーを大幅に低減できることが示された.すなわち,スパゲッティを沸騰水中で調理するより,常温の水に入れ急速に加熱する方が,食感に大差はなく,エネルギー消費量を大幅に削減できることが示唆された.

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© 2023 一般社団法人 日本食品工学会
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