日本食品工学会誌
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24 巻, 4 号
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解説
  • 神山 かおる
    2023 年 24 巻 4 号 p. 85-91
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル フリー

    食品のテクスチャーは重要な評価項目といえるが,食品は不均一で,食べている間にテクスチャーがダイナミックに変化する.食品の物理的性質は,口腔内に多数存在する受容器によってテクスチャーとして知覚される.そこで,多数の感圧点をもつシートセンサを用いて,固形状食品を圧縮したり噛んだりしたときの応力分布や液状食品の流動特性を評価する方法を設計した.また,市販の介護食品やそのモデルであるやわらかいハイドロコロイドゲルのような,舌と硬口蓋の間で容易に潰せるやわらかい食品を評価するために人工舌を導入した.この人工舌を組み込んだソフトマシンで圧縮試験を行った.人工舌は変形し,食品を取り囲んだため,従来のかたい機械を用いた試験で破断時の変形率が高かった食品試料は,ソフトマシンでは破断されずに評価された.これらの結果から,食品の破断変形が,舌と硬口蓋の間での圧縮による食品破壊の際に重要な因子であることが示唆された.ここで紹介した方法は,不均一食品のテクスチャー評価,多成分からなる加工食品の開発,食具のユニバーサルデザインなどに応用できる.

  • 小林 敬
    2023 年 24 巻 4 号 p. 93-101
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    未利用/低利用の食糧資源を高度に活用することは持続可能な社会の実現に必要不可欠である.本稿では種々の手段による各種食糧資源の有効活用について解説する.リパーゼ反応を利用して,未利用米ぬか由来ステロール/トリテルペンアルコールのエステル化プロセス,および共役リノール酸異性体の分離プロセスを構築した.また,脱脂米ぬかやオキアミを亜臨界流体処理し,その抽出物に抗酸化性物質が含まれていることを明らかにした.さらに,亜臨界水処理中に生起する反応を解析し,ジペプチドの反応機構を明らかにするとともに,糖の異性化挙動の解析を通じて希少糖の製造手段を提案した.一方,アルギン酸のゲル化と緩慢凍結による組織状構造の生成を通じて大豆代替肉の作製手段を提案した.さらに,複合コアセルベートを活用してココナッツ油をカプセル化することで可食性蓄熱マイクロカプセルを作製し,その温度変化抑制能を明らかにした.

原著論文
  • 藤田 信吾, 大澤 雅子, 稲熊 隆博
    2023 年 24 巻 4 号 p. 103-111
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    [早期公開] 公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    廃棄率が大きい食品であるスイカの廃棄率低減を目指して,果皮白色部を利用した果汁にしたところ,授粉後日数にかかわらず,廃棄率は20から30%の範囲にあり,日本食品標準成分表で記載されている40%よりも低かった.果汁色はL値とa値から授粉後40日をピークに変動することが推察された.Brixも完熟期である授粉後40日を境に安定化がみられ,10 °Bx程度確保できたことから,十分利用できる可能性が示唆された.果汁100 gあたりにシトルリンは164.7 mg(授粉後40日),アルギニンは41.9 mg(授粉後50日),γ-アミノ酪酸は16.5 mg(授粉後50日),リコペンは3.34 mg(授粉後40日)含有され,一重項酸素消去活性であるSOAC値は8.62 μmol α-トコフェロール当量/mL(授粉後40日)であった.果皮白色部を利用した果汁のSOAC値(y)とa/b値(x)との相関関係は強く(相関係数 = 0.915),回帰式(y = 5.824 x − 4.448)が得られ,a/b値からSOAC値を予測できる可能性が示された.

  • 稲葉 英憲, 杉山 智基, 吉本 則子, 山本 修一
    2023 年 24 巻 4 号 p. 113-117
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル フリー

    食品や医薬品製造では目的物質として高濃度のタンパク質溶液を正確にかつ連続的に測定することが望まれている.このような手法はPAT(プロセスアナリティカルテクノロジー)とよばれ,連続製造をはじめとするプロセスの高度化に必要である.旋光度(OR)は,タンパク質濃度測定としては一般的な方法ではないが,高濃度まで測定が可能であり,可視光に吸収がある物質による妨害が少ないことをすでに報告している.

    本論文では,この方法を連続測定に適用するため通常のセルを流通型に改造し,タンパク質濃度とORの直線性について,前報の値と比較し確認した.次に,セルの滞留時間分布を測定し,連続測定における測定可能範囲について検討した.セル容積が大きいので,急激な時間変化についての測定は難しいが,比較的緩慢な時間変化については問題なく測定できることが明らかとなった.また,セル容量が大きいことと接続チューブも太いので高流量・高粘性溶液の測定に適していると考えられた.

    実証のため抗体タンパク質の限外ろ過膜による濃縮工程に適用した.循環液を希釈して280 nmにおける紫外吸収で測定した値と,流通型ORセルによる連続測定値はよく一致した.

  • 安達 修二, 小林 敬, 小川 剛伸
    2023 年 24 巻 4 号 p. 121-126
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル フリー

    地球温暖化が警鐘されて久しく,多くの分野でその原因となる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの放出と発生の抑制や使用エネルギーの削減に対する努力がなされている.食料の生産と消費においても同様である.世界の作物上位10品目の収量に対する気候変動の潜在的な影響が評価され,小麦の生産は今後減少すると予測されている[1].また,調理の過程で消費されるエネルギーは,製品のライフサイクル全体で消費されるエネルギーの多くを占める可能性が指摘されている[2, 3].このような状況から,環境に配慮した食生活を意味するエコ・クッキングの考え方[5]が提唱されている.このような努力にもかかわらず,地球の平均気温は上昇を続け,2023年7月27日に国連事務総長は地球温暖化の時代は終わり,地球沸騰化の時代が到来したと警告した.

    パスタの調理過程で排出される二酸化炭素量は,原材料である小麦粉の栽培から消費の過程で排出される二酸化炭素の50%前後を占める[7].パスタの調理過程におけるエネルギー消費や二酸化炭素排出量を低減する調理器具や調理法の開発も試みられている[8].マイクロ波加熱によりスパゲッティを茹でる器具が開発され,通常の沸騰水中で茹でたスパゲッティと品質に大差はなく,マイクロ波加熱は調理時間が短いと報告されているが[9],エネルギー消費の観点での考察はなされていない.

    そこで本研究では,常温の水に漬けたスパゲッティを,IHヒーターを用いて異なる電力レベル(4段階),すなわち異なる昇温速度で,茹でたときの含水率および破断変形‒破断力曲線を測定し,沸騰水中で茹でたときに食感がよいとされる乾燥重量基準含水率の範囲内の1.6 g-H2O/g-d.m.まで調理する過程で消費されるエネルギーについて考察した.なお,使用したIHヒーターの消費電力(ワット数)は電力計を用いて測定し,102,266,459および935 Wであった.

    約5 cmに切断した直径1.6 mmの乾燥スパゲッティ(約50本)を1 Lの純水を入れた鍋に入れ,所定のワット数で加熱した.適当な間隔で試料を取り出し,そのときの水温と試料の含水率(図1)および破断変形‒破断力曲線(図3)を測定した.消費エネルギーはワット数に時間をかけて算出した.対照として,常温の水を沸騰させたのちに乾燥スパゲッティを投入する通常の調理法についても同様の測定を行った.

    室温の水に漬けたスパゲッティを加熱し,含水率が1.6 g-H2O/g-d.m.になるまでの消費エネルギーは,IHヒーターの電力レベルが低いほど少なかった(図2).しかし,ゆっくり昇温させると,スパゲッティ内の水分分布が平坦に近くなると報告されており[12],最大変形のときの破断力は小さかった.すなわち,歯ごたえのない食感になる.一方,使用したIHヒーターの最大出力である935 Wで加熱すると,破断変形‒破断力曲線は通常の調理法による試料とほぼ同様であり(図3),類似した食感を示すことが示唆された.このときの消費エネルギーは通常の調理法によるそれの約60%であり,消費エネルギーを大幅に低減できることが示された.すなわち,スパゲッティを沸騰水中で調理するより,常温の水に入れ急速に加熱する方が,食感に大差はなく,エネルギー消費量を大幅に削減できることが示唆された.

 
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