日本食品工学会誌
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解説
食品凍結乾燥のプロセス開発とモデル化に関する研究
中川 究也
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2025 年 26 巻 1 号 p. 1-9

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Abstract

食品製造のためのモデル開発において,種々の製品品質を製品組成とプロセスの操作条件から定量的に導くことは大きなモチベーションである.本稿では,凍結乾燥プロセスのモデル化に関する筆者の研究を紹介する.凍結乾燥プロセスにおける氷結晶形成は,乾燥速度を決定する重要な因子であるが,形成する氷結晶の平均サイズを凍結のシミュレーションによって推算し,ここから乾燥進行のシミュレーションへと繋げられることを示した.また,食品凍結乾燥の多くは外表面が受け取る輻射熱を主たる熱源として進行させるため,三次元的に乾燥が進行する.これを一次元的に取り扱える単純化したモデルを提案し,このモデルによる乾燥シミュレーションの検証結果を示した.さらに,凍結乾燥製品の品質と関わるコラプスの発生をシミュレートする試みについても紹介し,コラプスに伴う乾燥製品の形状変化を定量データとして扱う可能性について示した.

Translated Abstract

The motivation for developing mathematical models for food production is to quantitatively derive various product qualities from the product components and processing conditions. This paper introduces the author’s studies on the modeling of the freeze-drying processes. The ice crystal formation is an important factor in determining the freeze-drying kinetics. Here, an approach to simulate the freezing process for estimating the ice crystal sizes was introduced, and the results was further applied to simulate the progress of freeze-drying. In freeze-drying of food, drying progresses three-dimensionally as the outer surface receives radiative heat, and the sublimation surface area changes as the progress of drying. The author proposed a model that simplifies these phenomena and verified the simulation results. An attempt to quantification of the occurrence of collapse, which could be related to the quality of freeze-dried products, was also introduced. The deformation under the changes in moisture content and viscosity due to drying was simulated, and the resulting deformation level was used as quantitative data. It is expected that these approaches will contribute to the development of methodologies that can easily and quantitatively handle the complex food qualities.

1. はじめに

凍結乾燥食品(フリーズドライ食品)は高品位なインスタント食品として長年その市場価値が認識されてきた.日本凍結乾燥食品工業会の生産量調査によれば,同工業会加盟会社の2022年度の成形品の生産量は6億7200万食を越え,長期的にさらに伸びることが見込まれている.今後,生産技術の高度化への期待も益々高まる.食品凍結乾燥プロセスはほとんどがバッチ操作で実施されているが,連続生産が導入されているプロセスとしてはインスタントコーヒー製造がよく知られている.バッチ操作はメリット(少量ロット生産,製品バリエーション,洗浄性など)が多くある半面,デメリット(搬入と搬出の手間,生産ムラ,装置性能の差など)も多くあり,現行のプロセスを活かしながらその高度化をはかることがエンジニアリング研究に求められる.

これまで筆者は,食品をはじめとする凍結乾燥製品の品質の保持・向上を高度に実現するプロセス技術の開発を目標とする研究に取り組んできた.食品製造のためのモデル開発において,種々の製品品質(復水速度,復元性,成分保持,食味,食感など)を,製品組成とプロセスの操作条件から定量的に導くことが最大のモチベーションであるが,食品のもつ複雑性に対処しながら,事象をいかに単純化するかが大きなポイントである.モデルは対象とする現象のメカニズムを適切に表現できる理論が具備されているべきであるが,大胆な近似や,経験的パラメータの導入によるブラックボックス化も単純化のために必要となる.ただし,経験的パラメータの過度な導入は,操作因子(設定温度や圧力などの条件)と現象との相互作用を曖昧にすることとなり,モデルのロバスト性が失われる(異なる対象・操作・条件ごとにパラメータ変更の必要に迫られる).したがって,モデルにおけるメカニスティックな表現と経験的表現の適切なバランスが,簡易かつロバストなモデル構築のために重要である.操作によって設定できるパラメータ,もしくはプロセス内で計測できるパラメータは,モデルの数式表現に盛り込まれていることで,モデルをロバストにすることができる.経験的表現の導入は,複数事象の複雑な相互作用で決定される事象,もしくは制御できないトレンドの単純化に適用するべきだろう.これはモデルをどのような用途で使用するかを明確にしておくことの重要性とも関わっている.

これまで筆者は,凍結乾燥プロセスにおける各操作の過程で変化する製品の状態を予測し,これをさらに製品品質の予測・制御へ繋げるため,下記の項目に取り組んできた.

● シミュレーションによる氷結晶サイズと水蒸気移動係数の推算1-3

● 輻射加熱支配系の凍結乾燥モデル開発[4-6]

● 凍結乾燥材料のミクロ構造の解析とその定量化[7-9]

● 凍結乾燥過程でのミクロコラプスの発生度予測[10]

● 凍結乾燥プロセスの非接触モニタリング技術[11-15]

上記の取り組みの中から,氷結晶サイズの推算と関わるモデル化,輻射加熱を主たる熱源として進行する凍結乾燥プロセスのモデル化,および,これを基礎にコラプスの発生度をシミュレートする試みについて紹介する.

2. シミュレーションによる氷結晶サイズと水蒸気移動係数の推算

溶液を凍結させると,氷結晶による粒界とそれらの隙間を埋める凍結濃縮相によってミクロスケールの構造パターンが形成する.このパターン形成を精密に予測することは未だ難しく研究途上の領域といえるが,結晶粒の平均的なサイズについてはおおよその傾向をつかむことができる.凍結層の形成速度が速い場合には小さな氷晶が形成し,遅い場合は大きな氷晶が形成しやすい.また,溶液濃度が濃いほど小さな氷晶が形成しやすく,凍結の進行過程における固相内の温度勾配が大きいほど小さな氷晶が形成しやすい.ここで凍結層の形成速度(凍結界面の前進速度)をとし,凍結層内の温度勾配をとすると,凍結層内に形成する氷結晶サイズ()は,

  
(1)

との経験式によって表現できる.ここで係数abcの値を適切に選ぶことによって,製品内に形成する氷結晶サイズを推算することができる.したがって,凍結過程における温度履歴を推算できれば,経験的パラメータを用いて氷結晶サイズを推算できる.

ここで棚板冷却によってバイアル瓶内の溶液を凍結する過程を,有限要素法を用いてシミュレートした例を紹介する[2, 16].バイアル瓶底面が一定の降温条件によって冷却されていると設定する(Fig. 1).熱伝導方程式は,密度:,熱容量:,熱伝導率:,を用いて以下の様に書ける.

  
(2)
Fig. 1

Schematics of freezing model of solution in a vial.

冷却の過程において,バイアル底面近くの領域は過冷却状態となる.過冷却解除のタイミングは予測がつかないため,シミュレーションの実施の際には任意に決定することとなる.したがって,代表的な場所の温度がある値になった時点を過冷却解除点とし,これ以降における凍結過程を以下の熱伝導方程式を適用する.

  
(3)

ここで,は単位時間あたりに過冷却解除によって放出される凝固エンタルピーは過冷却解除後の氷晶成長によって単位時間あたりに放出される凝固エンタルピーである.過冷却の解除は過冷却度()過冷却の解除は過冷却度()に比例する速度で進行すると考え,凝固エンタルピーを用いて以下のように書く[17].

  
(4)

ここで,は核形成速度定数である.これは過冷却解除時の氷晶成長速度から推算する.ただし,vは,温度,厚みの過冷却溶液から氷晶が成長するときの速度である.

  
(5)

過冷却状態が解除された後,はゼロとなり,氷晶の生成量()に応じた潜熱分だけ熱が供給されることになる.したがって,

  
(6)

系からの熱の流出に応じて氷晶が成長し凍結が進行していく過程における溶液を,未凍結層,懸濁層(水中に氷が分散している状態),凍結層の3つの層に分けられるとモデル化する(Fig. 1).それぞれの層に異なる熱容量,熱伝導度を適用し,懸濁層の内部には線形に温度勾配,熱伝導度勾配が形成していると設定し,懸濁している氷のフラクションは,未凍結相と接しているところでゼロ,凍結相と接しているところで最大値をとると仮定する.それぞれの層においてみかけ熱容量と熱伝導率をそれぞれ適用する.

  
(7)

  
(8)

上記を式(3)に適用して有限要素法による計算を実施し,時間依存の解を得ることで凍結過程における溶液内部の温度履歴を計算することができる[2].

シミュレーション結果より得られる凍結界面の進行速度(),凍結層内の温度勾配()を用いて,式(1)より凍結層内に形成する氷結晶サイズ()を推算した.推算に際し,を適用し,実験より得た氷結晶サイズと合致するようにaを決定した.Fig. 2に,顕微鏡観察によって得た氷結晶パターンとシミュレーション結果から推算した凍結溶液内部における氷晶サイズの分布をそれぞれ示す.一定の冷却速度で凍結した場合でも,溶液の下部ほど氷晶のサイズは小さく,上部ほど大きいことが再現できている.この傾向は凍結条件が異なる場合にも定性的な傾向は同様であるが,任意の凍結速度,核形成開始温度に依存して形成する氷晶サイズを定量的に予測できることがシミュレーションによって得られる大きなメリットである.

Fig. 2

Ice microstructure formation in a vial and the ice crystal size distribution estimated by simulation.

氷晶が形成するミクロ構造のパターンは,昇華時に水蒸気の物質移動抵抗を決定する重要な因子となる.氷晶が小さいほど乾燥後に形成する細孔径が小さく,乾燥過程でここを水蒸気が移動する際の物質移動抵抗は大きくなる[18].また,サイズのみでなく,氷晶の方向性も物質移動抵抗に影響を与える因子であり,複雑に入り組んだネットワーク構造は物質移動抵抗を大きくする.氷晶サイズが乾燥層内の水蒸気の透過係数(有効拡散係数(透過係数)),にどの程度のインパクトを与えるかを試算した結果をFig. 3に示す.乾燥層内での有効拡散係数の推算には下記のモデルを適用した.

  
(9)

ここで,は細孔の屈曲係数,は空隙率である.はKnudsen 拡散係数であり,細孔の平均サイズ()を用いて,

  
(10)

と書ける.なお,は気体定数,は水のモル質量である.凍結乾燥過程を考えるにあたり,乾燥層内の細孔サイズは氷結晶サイズ()と置き換えて考えることができる.

Fig. 3

Estimated values of mean ice crystal sizes and effective diffusion coefficients in the dried layer as a function of ice nucleation temperature.

凍結速度が遅く過冷却解除の温度が高いほど氷晶サイズは大きく,この逆の場合ほど氷晶サイズは小さくなるが,これを反映して乾燥層内の有効拡散係数に倍程度の差が生じることがわかる.また,緩慢な凍結条件を適用した場合は過冷却解除の温度のばらつきにより大きな乾燥速度のばらつきも大きくなることが予見できる.

このように乾燥層の有効拡散係数が決定できれば,乾燥進行のシミュレーションを実施することができる.棚板からの伝導伝熱を熱源として一次元的に進行する凍結乾燥プロセスについては,簡易に計算できるモデルが提案されており[19],これを援用して氷結晶サイズが凍結乾燥の進行に与える影響の定量的な評価を実施した[7].Fig. 4に示すように,棚板温度設定()と庫内圧力設定()に対して,乾燥過程における昇華面温度の平均値をシミュレーションによって求め等高線で示している.昇華面温度は凍結乾燥過程における構造崩壊(コラプス)の発生と関わっており,適用できる製品温度の上限値の目安上限となる.例えばコラプスの発生温度が241 Kの場合,温度以下に保持できる操作条件を適用することで確実にコラプスを防ぐことができる.このような操作は,ここに示す等高線図において241 K以下となる領域から棚板温度と庫内圧力の組み合わせを設定することで実現できる.ここに示すように氷結晶サイズ()が大きくなることで,コラプスを防ぐことのできる操作領域が広く確保できることがわかり,プロセス操作上の優位性を定量的に示すことができている.

Fig. 4

Examples of simulations results of drying curve and sublimation surface temperature (A1, B1); average sublimation surface temperature contours as functions of shelf temperature and chamber pressure (A2, B2) [7].

3. 輻射加熱支配系の凍結乾燥モデル

食品凍結乾燥の多くは,輻射加熱の機構が装備された装置で実施されている.装置内部には複数の加熱板が登載されており,このクリアランスに食品を登載したトレーを配置できるようになっている.製品の乾燥は外表面から内部にかけて進行し,製品の受熱は加熱板からの輻射熱が主となる.加熱板から輻射熱を受けるトレーからの伝導伝熱も無視できない伝熱経路となる.熱が消費される昇華面への伝熱経路の概略図をFig. 5に示す.乾燥層の熱伝導率は非常に小さく,Case Aのような場合にはトレーからの伝導伝熱の影響は小さくなる.一方,Case Bのように熱伝導率が大きい凍結層がトレーと接している場合には,ここでの伝導伝熱は無視できない.乾燥の進行過程で,例えばCase BからCase Aへと移行するというケースも考えられるし,製品の設置状況(個別のパックトレー内で乾燥を進める場合,製品浮きが発生している場合など)によっても該当するケースは異なるだろう.

Fig. 5

Schematics of heat transfer during freeze-drying of food products by radiative heat source.

製品への輻射源がi個あるとし,それぞれの総和を総輻射伝熱量()とすると,

  
(11)

ここで,は製品の外表面温度,i番目の輻射源の温度,Aii番目の輻射源から熱を受ける面積,i番目の輻射源の輻射率,はステファン-ボルツマン係数である.加熱板(温度Th)のみからの輻射熱源を考えると,

  
(12)

これを整理して,

  
(13)

ただし,

  
(14)

ここで,は輻射と関わる面積に熱伝達係数を乗じた係数である.これを定数とみなせば,この係数の値は氷の昇華試験を実施して求めることができる.また,トレーへの輻射熱量も同様に導出することができる.

外表面からの輻射熱を主たる熱源として進行する食品凍結乾燥の多くは,三次元的に乾燥が進行するために昇華面の面積が乾燥の進行とともに変化する.乾燥が三次元的に進行する場合,外表面積と昇華表面積は常に異なり,製品形状に依存して乾燥層の厚みにも分布ができる.乾燥層の代表厚みを近似的に求め,一次元的なモデルを構築したい.製品の外表面積(),昇華面面積(),製品底面積()を球座標に再配置し,得られる中空の球体の厚みから,平均凍結層厚み,乾燥層厚みを近似的に算出する.この近似に基づけば,昇華面に到達する伝熱量()を下記のように書くことができる(Case B).

  
(15)

ただし,乾燥層,凍結層の熱伝導率をそれぞれとすると,

  
(16)

  
(17)

  
(18)

である.ここで,は製品底部における総括熱伝達係数である.

昇華面で発生した水蒸気(蒸気圧 Ps)は,乾燥層,乾燥庫,主管,コンデンサへと移動してコールドトラップ表面(蒸気圧 Pc)に着氷する(Fig. 6).この過程が水蒸気密度差を駆動力として進行していると仮定し,乾燥層内の水蒸気透過係数をKA,製品表面からコールドトラップ表面にいたる装置内経路の総括コンダクタンスをKccとして,昇華速度は以下のように書ける.

  
(19)

ただし,Tavは水蒸気移動経路における平均温度である. 乾燥過程における熱と物質の移動速度が擬似的な定常状態に至っていると仮定すれば,これらのモデル式を用いて乾燥の進行履歴をシミュレートできる.

Fig. 6

Mass transfer modeling during freeze-drying of food products.

Fig. 7にこのモデルをスープ状食品の乾燥進行のシミュレーションに適用した例を示す[5].シミュレーションの結果は良好に含水率変化を予測しており,製品温度も良好に予測できていることが伺える.ただし,シミュレーションによって得られる昇華面温度の推移は移動境界の温度であり,定点で計測したセンサが示す値のトレンドとは異なる.シミュレーションの実施によって,昇華面の温度の推移などをあらかじめ予測しておけば,発泡などの乾燥不良に繋がる乾燥条件を比較的容易にみつけられるだろう.もっとも,産業上の実際的な凍結乾燥はより複雑な系を対象としているケースが少なくない(例えば具材入りのスープ食品など).ある程度の発泡を許容しながら乾燥を進行させるケースも少なからずあるはずだが,ここで紹介したモデルにはこれらの現象は想定されていない.シミュレーションを実用に即した実プロセスの評価ツールとするためには,ターゲットとする製品と装置をより適切に表現するパラメータの取得・適用が課題となるだろう.

Fig. 7

Simulation results of freeze-drying of food products [5].

4. 凍結乾燥過程でのミクロコラプスの発生度予測

凍結乾燥過程において,凍結濃縮相の温度がガラス転移点以上の状態が継続すると,製品の崩壊(コラプス)が起こる.コラプスの発生程度は製品品質と関連する大きな因子の1つであり,これを定量的に評価する方法論の確立が課題となる.局所で進行するコラプス(ミクロコラプス)の発生をシミュレートすることを試み,次のような仮定に基づいてモデル化した.① コラプスは凍結濃縮相からの脱水過程で生じ,ガラス転移点以上となる相の流動によって進行する.② 相の粘度は含水率と温度に依存して変化し,ガラス転移点を基準にWilliams–Landel–Ferryモデルによって与えられる.③ 試料は粘度と形状に依存して表面張力のみによって変形する.

Fig. 8にその概要を示すように,断片化した凍結濃縮相に対し二次元二相流体モデルを適用し,①〜③の仮定に基づきシミュレーションを実施した.これは水蒸気(流体Ω2)中に断片化した凍結濃縮相領域(流体Ω1)を置き,その境界面Γをレベルセット法によって追跡するものである(Fig. 8).凍結乾燥過程を模したこの断片は,乾燥の進行に伴って変化する温度と含水率に依存して粘度が変化し,表面張力が引き起こす変形の度合が操作条件ごとに異なる.最終的な断片の形状が,ミクロコラプスの程度を反映していると考え,この断片が円形に近いほどコラプスの発生度合が高いとみなすことをねらっている.

Fig. 8

Schematics of the simulation of deformation of the fragmented freeze-concentrated region.

このモデルに基づき,実験に使用した物質のガラス転移温度の含水率依存性,ならびに実験的に取得した温度履歴を適用してシミュレーションを実施した.Fig. 9に示すように,乾燥の進行に伴う粘度変化,それに伴う形状変化がシミュレートできた.この結果から予測された形状変化から算出した真円度と,X線CT画像の解析によって得られた真円度とは良好に相関しており,断片化された凍結乾燥試料のミクロ構造骨格の形状変化は,コラプス発生の良好な指標であると考えて妥当だった.今後の課題は,これらと相関する品質項目を見出し,操作条件から最終品質までをモデルベースで予測することである.最近のいくつかの取り組みから,様々な品質のすべてがミクロコラプスという指標と相関している訳ではないことを確認しており,冒頭に述べたような「種々の製品品質(復水速度,復元性,成分保持,食味,食感など)を,製品組成とプロセスの操作条件から定量的に導く」という目標は決してたやすくない.しかし,モデルが予測できる事象の価値が高いほど,そのアプローチの意義も高まる.これがひいては高度なエンジニアリングに繋がることが期待される.

Fig. 9

Simulated deformation of the fragmented freeze-concentrated region [10].

5. おわりに

凍結乾燥プロセスのモデル化と関わる筆者の研究の取り組みを紹介した.まず,凍結乾燥プロセスにおける製品内の氷結晶形成は,乾燥速度を決める重要な因子であるが,形成する氷結晶の平均サイズを凍結のシミュレーションによって推算し,ここから乾燥進行のシミュレーションへと繋げられることを示した.食品凍結乾燥の多くは外表面からの輻射熱を主たる熱源として進行し,三次元的に乾燥が進行するために乾燥面の面積が乾燥の進行とともに変化する.これを一次元的に取り扱うための単純化と,計測データとして取得しにくい外表面の温度と水蒸気圧の取り扱いを工夫したモデルを提案し,このモデルによる乾燥シミュレーションの検証結果を示した.また,凍結乾燥製品の品質と関わるコラプスの発生を定量的に扱うことを目標にとして,乾燥過程における製品構造の形状変化をシミュレートする試みについても紹介し,この形状変化を定量データとして扱う可能性について示した.今後,食品の持つ複雑な製品品質を,簡易かつ定量的に導く手法開発を通じて,高度な生産を実現するエンジニアリングの発展に貢献したい.

6. 謝辞

今回紹介させていただいた本研究は,リヨン第一大学に博士研究員として在籍した2004〜2006年にJulien Andrieu教授の指導の下で実施した研究からスタートしました.その後在籍した兵庫県立大学,京都大学を経て現職に至るまでの20年間,多数の学生諸氏,同僚,共同研究者とその支援に支えられて研究成果を積み上げてきました.ここに厚く御礼申し上げるとともに,日本食品工学会の諸氏からも温かいご指導を頂いたことに感謝いたします.

References
 
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