食品製造のためのモデル開発において,種々の製品品質を製品組成とプロセスの操作条件から定量的に導くことは大きなモチベーションである.本稿では,凍結乾燥プロセスのモデル化に関する筆者の研究を紹介する.凍結乾燥プロセスにおける氷結晶形成は,乾燥速度を決定する重要な因子であるが,形成する氷結晶の平均サイズを凍結のシミュレーションによって推算し,ここから乾燥進行のシミュレーションへと繋げられることを示した.また,食品凍結乾燥の多くは外表面が受け取る輻射熱を主たる熱源として進行させるため,三次元的に乾燥が進行する.これを一次元的に取り扱える単純化したモデルを提案し,このモデルによる乾燥シミュレーションの検証結果を示した.さらに,凍結乾燥製品の品質と関わるコラプスの発生をシミュレートする試みについても紹介し,コラプスに伴う乾燥製品の形状変化を定量データとして扱う可能性について示した.
本研究は,亜臨界流体を用いる新奇抽出法の開発,ならびに,技術革新による発酵食品の菌叢解析の実践,および未知微生物の新奇な単離方法に関する.食品由来成分の効率的抽出法の確立を目標に,含水有機溶媒を用いる亜臨界流体抽出法を考案した結果,従来の亜臨界水抽出法に比べて抽出効率が向上することを見出した.さらに,小スケールの亜臨界抽出反応システムを開発し,和種薄荷精油の主要成分に対する熱分解特性の解明に応用した.また,伝統自然発酵食品である野菜発酵液(コウソ液)の菌叢解析を行い,未知の乳酸菌が優勢的に存在することを見出した.本菌は難培養菌の特性を有し,当初は純粋培養ができなかったが,筆者が考案した特殊な分離方法により純粋培養に成功し,単離した新菌をApilactobacillus kosoi と命名した.さらに,共同研究により,本菌の腸管免疫賦活活性が非常に高く,その細胞壁成分に含まれる新奇リポテイコ酸が免疫賦活に寄与していることを明らかにした.
肥満予防は生活習慣病を抑制し健康寿命を延伸させるために重要である.筆頭著者が所属する企業では,胃壁伸展による食欲抑制効果に着目し,胃液の酸性条件下で発泡し気泡含有ゲルを形成する炭酸飲料の開発および評価を行った.服用性,持続性および利便性向上の観点からペクチンを配合した炭酸飲料を開発し,ヒト胃内での気泡含有ゲルの状態および満腹感向上に関する知見を得た.次に,著者らは,胃ぜん動運動を模擬したヒト胃消化シミュレーターを用いて,気泡含有ゲルのin vitro評価を行った.解析の結果,エステル化度が低くアミド化度が高いペクチンを使用するとともに,飲料中のクエン酸濃度を低くすることで,気泡含有ゲルの膨張性および持続性が向上することが示唆された.胃内で気泡含有ゲルを形成する飲料が2014年に筆頭著者が所属する企業より市販され,本研究の成果は,2018年以降の製品リニューアルに活用された.
現代社会における高齢化の進展に伴い,嚥下障害は高齢者ケアの重要な課題となっている.嚥下障害をもつ高齢者には,柔らかく,しっとりとした飲み込みやすい食品の開発が求められている.しかし,現行の嚥下障害食の多くはマッシュ状またはピューレ状であり,その外見が乏しく,食欲をそそらないため,栄養失調のリスクが増大する可能性がある.さらに,介護食を食べる人々には嚥下能力に個人差があり,全員が同じ硬さや食感の食品を必要とするわけではない.このため,各個人の嚥下能力に応じて食品をパーソナライズ化することが重要である.
本研究では,カードランという微生物由来の多糖類を使用した2種類の材料を用い,3Dフードプリンターの混合造形技術を活用して,硬さが異なる食品を作成した.具体的には,材料の混合比率を調整することで,介護食の分類の中でも5つの異なる硬さの食品を造形し,同一の食品内で硬さが場所によって異なるグラデーション造形を行った.この作成法により,食べる部位によって異なる食感を楽しめる食品を作成し,嚥下障害者の個別のニーズにより細かく対応することを目指した.
粘弾性特性の評価では,線形粘弾性領域(LVR)により,2つのインクの線形限界が1%未満であった(Fig. 2(a)).LVR内では,ひずみが小さすぎてインクの物理的構造に影響を与えない.この線形領域では,ひずみは材料の物理的構造に影響を与えることがないほど小さく,貯蔵弾性率は損失弾性率よりも高くなった.しかし,LVRを越えると,材料の変形により貯蔵弾性率と損失弾性率の大幅な減少が引き起こされた.損失弾性率が貯蔵弾性率を上回る場合,フードインクは弾性的な力よりも粘性的な力が支配的になり,液体的な挙動を示した.また,3.6 wt%のインクは4.3 wt%のインクに比べて粘度が低く,相対的に動的構造を示した(Fig. 2(b), Table 3).4.3 wt%のインクは,より固体のような挙動を示し,形状保持能力が高い一方で,エネルギーの散逸が多く,せん断変形に対して粘性が高かった.対照的に,3.6 wt%のインクは,より流動的で形状保持能力が低いことが示された.
テクスチャー試験(TPA)では,3.6 wt%のインクが4.3 wt%のインクよりも応力が低く,低い質量パーセンテージのカードランによって形成されたため,応力の変動が少ないことが示された(Fig. 3(a), Table 3).一方,4.3 wt%のインクは,ネットワークの強化により,硬さの変動が大きく,ひずみに対する硬さの増加が顕著であった.加熱後のサンプルを5つの異なる混合比(①0.00:1.00,②0.25:0.75,③0.50:0.50,④0.75:0.25,⑤1.00:0.00)で造形し,破断試験を行った(Fig. 4).混合比の調整により,応力が変化し,特に4.3 wt%のインクの割合が増加するにつれて応力が増加した(Fig. 3(d)).本研究の手法により,患者の嚥下能力や食事の状況に応じて,食事のテクスチャーを柔軟に調整することが可能であることが示された.
The rehydration process of dried wheat flour noodles (flat noodles) prepared by adding 0, 5, 10, and 15% wheat gluten by weight to wheat flour was measured at temperatures ranging from 40 to 80°C. Regardless of the gluten content, the rehydration process at any temperature was well described by an empirical hyperbolic equation regarding the rehydration time. The equilibrium moisture content and initial rehydration rate were smaller for the noodles with higher gluten content. The temperature dependence of equilibrium moisture content varied significantly between 50 and 60°C at any gluten content, reflecting the gelatinization temperature of the starch in the flour, and could be expressed by the van’t Hoff equation for the high-temperature region. The change in rehydration enthalpy at high temperatures was almost independent of the gluten content of noodles. The temperature dependence of the initial rehydration rate could also be expressed by the Arrhenius equation over all temperature ranges tested, and the activation energy for rehydration was almost independent of the gluten content.