2018 年 35 巻 3 号 p. 134-142
V. vulnificusは汽水域に広く存在し,魚介類の生食や海水暴露を介し,希に肝臓疾患などを有するヒトに致死的な感染をひき起こす.有明海沿岸は国内でもV. vulnificus感染症の重症患者の報告が多い.本研究では,16S–23S rRNAオペロン遺伝子間スペーサー(ITS)領域の制限断片長多型(RFLP)に基づくV. vulnificusの高感度検出法について報告する.有明海を含む長崎県沿岸域と九州北部の患者に由来するV. vulnificus 158株を調査した.7クラスター(I~VII)のうち,クラスターIIIには臨床由来株の57%(16/28)が属し,さらにそこに含まれた49株のうち96%の株が臨床型の病原性関連遺伝子(vcg)を保有していた.また有明海由来株は全7クラスターに分布し,その64%の株が臨床型vcg遺伝子を有し,さらにその53%がクラスターIIIに属した.このことは,長崎県の有明海以外の沿岸地域で分離された株の特徴とは対照的であった.これらの結果は,(1) rITS-RFLP法は感染リスクの高いV. vulnificus株を検出するのに十分感度が高く,(2)有明海沿岸域は長崎県のそれ以外の沿岸域に比べてV. vulnificusの多様性が高いことを示している.