日本食品微生物学会雑誌
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東北地方における腸炎ビブリオ散発下痢症の発生状況, 海水・海泥からの腸炎ビブリオの分離, および各分離株の分子疫学的性状
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2004 年 21 巻 1 号 p. 30-37

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抄録

東北地方における腸炎ビブリオ散発下痢症患者の発生状況, 各県沿岸の海水・海泥におけるTDHおよびTRH産生性腸炎ビブリオの分布, 患者と環境分離株の分子疫学的性状の比較・検討を行い, 以下の成績を得た.
1. 青森県, 秋田県, 山形県では散発下痢症患者の発生は7月25日から8月21日に集中する傾向が見られ, 岩手県と福島県においても散発下痢症患者の発生は8月に集中していた.
2. 青森県, 秋田県, 宮城県において, 7月中旬に海水温が急激に上昇し, その約2週間後に散発下痢症患者発生数が増加するという傾向が見られ, 海水温が本菌散発下痢症患者発生の指標となりうる可能性が示された.また, いずれの県においても腸炎ビブリオO3: K6散発下痢症患者初発生後, 5週間以内に集団食中毒が発生したことから, 海水温の変動と散発下痢症患者発生が腸炎ビブリオ集団食中毒発生の指標となる可能性が示された.
3. 腸炎ビブリオ散発下痢症患者分離菌株計l, 265株のうち, O3: K6が86.8%を占め, O4: K68が3.2%, O1: K56が1.4%, その他の血清型はいずれも1%未満であった.
4. 宮城県で海泥1検体から血清型O3: KUTtrh陽性, 福島県で海泥1検体から血清型O3: K6tdh陽性とO3: K7tdh陽性が分離され, 東北地方の沿岸海泥にtdh, trh陽性腸炎ビブリオが分布していることが証明された.
5. 腸炎ビブリオO3: K6tdh陽性菌はいずれも非常に類似したPFGEパターンを示したが, 約300kbのバンドの有無によりA型とB型に分けることができた.さらに, 各型の中で見られたその他のバンドに違いから, A類似型, B類似型に区分した.
6. 青森県, 福島県, 秋田県, 山形県の散発下痢症患者由来株にはA型, またはA類似型に型別される株が多く, 岩手県ではB型, およびB類似型の株が多い傾向が見られ, PFGE型の分布に地域的特徴が見られた.
7. 福島県で海泥から分離された血清型O3: K6tdh陽性株は福島県の散発下痢症, 集団食中毒事例分離株に多く見られるA型であった.
以上の結果から, 今後, さらに環境におけるtdhあるいはtrh保有腸炎ビブリオの分布実態や消長を解明することが, tdhまたはtrh保有腸炎ビブリオによる食品汚染の発生機構など, 腸炎ビブリオ感染疫学を解明する上で重要と考えられた.

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