2017 年 81 巻 4 号 p. 293-299
沿岸域の生態系サービスから享受する福利の構造を可視化し,地域間比較することを目的として,人間と海との関わり方が異なると想定される国内2サイト(岡山県備前市日生および沖縄県石垣市)において調査を実施した.国連ミレニアム生態系評価で定義されている福利の5要素(安全,快適な生活のための基本的資材,健康,良好な社会関係,選択と行動の自由)は,互いに影響を及ぼしあう構造を有していることが国内において初めて確認された.しかしその一方で,各要素間の影響関係は地域ごとに異なり,日生では,特に「安全」が「健康」に強く影響することを通じて最終的に「選択と行動の自由」を高めること,石垣では「快適な生活のための基本的資材」が「良い社会関係」への強い影響を通じて最終的に「選択と行動の自由」を高めることが明らかとなった.これらの結果は地域の人々の沿岸域との関わり方の違いに由来すると推察された.