抄録
腹腔内デスモイド腫瘍に対し,保存的治療経過中に小腸にデスモイド腫瘍が穿通,さらに膿瘍形成後,腹腔内に破裂した家族性大腸腺腫症の1例を経験した.
症例は41歳,男性.5年前,家族性大腸腺腫症に合併したS状結腸癌,十二指腸癌に対して大腸全摘術及び膵頭十二指腸切除術を施行されている.術後3年目より,腹腔内デスモイド腫瘍の診断にて保存的治療が行われていたが,腹痛を主訴に受診し,白血球数,C-reactive protein値の上昇と腹膜刺激症状を認めた.腹部computed tomography (CT)検査でfree airを伴う腹水を認め,CTガイド下ドレナージ術を施行するも,持続的に腸液の流出が認められた.術前検査にて,デスモイド腫瘍は上腸間膜動脈を巻き込むように存在し,デスモイド腫瘍が小腸に穿通し,膿瘍を形成後,破裂した病態と診断した.開腹時には,デスモイド腫瘍と回腸が一塊として存在し,デスモイド腫瘍表面に小腸液が流出する小孔を認めた.デスモイド腫瘍が穿通した小腸の切除,デスモイド腫瘍内膿瘍腔を開放した.口側小腸は単孔式人工肛門とし,肛門側小腸は粘液瘻とした.