2019 年 54 巻 1 号 p. 15-23
野菜育苗農家では,薬剤耐性菌の出現,病害拡散の防止,生産農家の要望のため農薬散布の削減が課題になっている.そこで本研究ではトマト育苗農家で実用的に供しうるうどんこ病代替防除技術として,温湯散布(熱ショック)技術の開発を行った.温湯散布処理では誘導抵抗性および熱による消毒が期待される.温湯散布処理による糸状菌に対する抵抗性誘導の実用的な適用条件を決定するための実験モデルとして灰色かび病が用いられた.トマトの苗を50℃で20秒間温湯浸漬すると灰色かび病に対する抵抗性が誘導され,塩基性細胞内β-1,3-グルカナーゼ,塩基性細胞内キチナーゼおよび病原感染特異的たんぱく質PR1aの各病原感染特異的遺伝子の発現量が増加した.牽引可能な温湯散布装置を試作しその性能を生産現場で評価したところ,0.5 m /minで移動しながら57℃±2℃の温湯を噴霧すると苗の葉の一部の温度は約20秒間,50℃に達しうどんこ病が抑制された.さらに,熱ショックは全身的に抵抗性を誘導することが知られており,植物体全体を目的温度で加熱する必要はない.これらの結果から温湯散布はトマト育苗場でのうどんこ病防除に効果的である可能性が示唆された.