農作業研究
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54 巻, 1 号
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研究論文
  • 曾 傑, 熊野 貴宏, 藤井 賢彦, 山形 定, 上出 光志, 荒木 肇
    2019 年 54 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/09/01
    ジャーナル フリー

    日本国内では秋季から冬季にかけての伏せ込み促成栽培によるアスパラガスに対して大きな需要がある.冬季,温室でのアスパラガス生産には,加温熱源として多量の石油や電気が必要であり,大量のCO2排出と高いコストを伴うことから,低炭素を有する代替加温システムが期待される.本研究では,北海道の冬季プラスチックハウスでアスパラガス伏せ込み栽培を行い,3種の加温システムを比較した.それらは①電熱線による土加温,②温水による土加温,および③温水による土と空気加温であった.温水は木質ペレットボイラにより製造された.いずれのシステムでも厳寒期においても14 cm深の土壌温度は15〜20℃に維持された.厳寒期に外気が–18℃になった時でも,土壌と空気加温システムでは,若茎の伸長エリアが保温されたので凍害は発生しなかった.温水加温システムは従来型の電熱線加温システムよりも多量の熱量を供給しアスパラガス若茎の可販収量は電熱線加温の1.1~1.3倍に増加した.温水加温システムにおける1 kg若茎生産のためのCO2排出および所要コストは電熱線加温システムより明らかに大きくなったが,わずかな生産効率の改善が示された.本実験で使用したペレットボイラ(プロトタイプ)は,伏せ込み栽培規模(9 mベッド)に対して過剰な設備であり,今後アスパラガス栽培に適した大きさのペレットボイラの導入が期待される.

  • アロファトゥラ ヌル アクバル, ウィディアストゥティ アニ, チンタ ユフィタ ドゥイ, 小林 智之, 七夕 小百合, 佐藤 達雄
    2019 年 54 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/09/01
    ジャーナル フリー

    野菜育苗農家では,薬剤耐性菌の出現,病害拡散の防止,生産農家の要望のため農薬散布の削減が課題になっている.そこで本研究ではトマト育苗農家で実用的に供しうるうどんこ病代替防除技術として,温湯散布(熱ショック)技術の開発を行った.温湯散布処理では誘導抵抗性および熱による消毒が期待される.温湯散布処理による糸状菌に対する抵抗性誘導の実用的な適用条件を決定するための実験モデルとして灰色かび病が用いられた.トマトの苗を50℃で20秒間温湯浸漬すると灰色かび病に対する抵抗性が誘導され,塩基性細胞内β-1,3-グルカナーゼ,塩基性細胞内キチナーゼおよび病原感染特異的たんぱく質PR1aの各病原感染特異的遺伝子の発現量が増加した.牽引可能な温湯散布装置を試作しその性能を生産現場で評価したところ,0.5 m /minで移動しながら57℃±2℃の温湯を噴霧すると苗の葉の一部の温度は約20秒間,50℃に達しうどんこ病が抑制された.さらに,熱ショックは全身的に抵抗性を誘導することが知られており,植物体全体を目的温度で加熱する必要はない.これらの結果から温湯散布はトマト育苗場でのうどんこ病防除に効果的である可能性が示唆された.

研究報文
  • 平泉 光一
    2019 年 54 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/09/01
    ジャーナル フリー

    農業生産管理の先行研究では,農業生産指標の代表値の選択問題は取り上げられてこなかった.農業生産に投下された単位面積当たり労働時間や作物の単位面積当たり収量といった農業生産指標については,代表値として典型値を求めることが望ましいケースがある.それは,自然環境の影響を受けやすい農業では生産指標が片側に裾が長い分布になることがあるからである.この研究では,農業生産指標の代表値として,典型性をもった代表値である最頻値に注目した.とはいえ,実用に十分耐えうる最頻値計算法はいまだ確立していない.通例,最頻値はヒストグラムを作成したうえで最大度数の階級の階級値として求められる.しかし,通例の方法で求めた最頻値は,階級幅を一定にしても「端点」の決め方次第で不定になって一意性が保証されない.通例の方法で求めた最頻値を生産指標の代表値として用いるのは望ましくない.ヒストグラムを使わない最頻値計算法として,次数pが0に近い正の小数の実数であるときのLpノルム推定を選択した.しかし,次数pが1未満のLpノルム推定量の計算は,非線形の非凸問題になっていて,大域的最適解を厳密に解くのは簡単ではない.この研究では,次数pが1未満を含むLpノルム推定による一意的な最頻値の計算方法として,表計算ソフトウェアのワークシートを利用した非凸問題の簡便な計算方法を提示し,実際の農業生産指標の最頻値算出にその方法の適用を試みた.

  • 加藤 仁, 梅田 直円, 嶋津 光辰, 関 正裕, 山本 亮, 大野 智史, 木村 敦
    2019 年 54 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/09/01
    ジャーナル フリー

    粗玄米収量900~1000 kg/10 aの超多収水稲品種を安定して収穫するため,汎用コンバインの揺動選別部と穀粒搬送部を処理量の大きい部品へ変更した.本機を用いて超多収水稲品種である「北陸193号」の収穫試験を行い,作業精度,作業能率の測定を行った.その結果,脱穀選別損失が3.0%以下,夾雑物割合が1.0%以下になり,10 aあたりの作業時間は19分43秒で安定した収穫作業が可能となることが明らかとなった.

論説
  • 田島 淳
    2019 年 54 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/09/01
    ジャーナル フリー

    農業は生態系の一部を活性化させて人が欲しいものを手に入れる生業である.しかし,その全ての過程において排出されたものは自然の循環に戻さなければ持続しない.農作業学会編纂の『農作業学』には,「農業における農産物の生産は,自然の物質循環過程の法則を活用して,作物,家畜によってより効率の高い物質生産が行われるように,人為的に制御できる範囲において,物質循環のための環境を管理することによって行われるものである.」と記されている.この論説では,この定義に則って「農作業」と,「運転」,「情報」,「ロボット化」,「AI」といったキーテクノロジーとの関係を論じ,未来の農作業のあるべき姿を考察した.その結果,農作業の根底は,収穫への感謝と喜びであるとし,全てを循環の中で行う未来の農作業は,生命活動によって生じたエネルギーだけで行われるべきであると結論付けた.

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