抄録
今回われわれは, 認知症により意思疎通が困難な患者の習慣性顎関節脱臼に対して, 自己血注入療法を施術し, 良好な経過を得たのでその概要を報告する。
症例は, 84歳, 女性。当法人老人施設に入所しており, 入所時より認知症があり, 認知症高齢者の日常生活自立度はIIIaであった。入所後, 食事や就寝時に顎関節脱臼を起こし, その度主治医による整復を行っていたが, 整復困難となり当科に紹介受診した。初診時は徒手にて整復を行い, チンキャップにて顎外固定を行ったが, その後再脱臼の頻度が増してきたため, 自己血注入療法により再脱臼防止を施術した。術後, 顔面神経麻痺などの症状もなく経過良好であり, 術後7日間, 包帯による顎外固定を行い, 顎外固定除去直後の最大開口域は30 mmであった。その後, 再脱臼も起こさず経過良好である。