抄録
患者は脳梗塞の既往がある74歳の男性であり, 要介護度は5であった。脳梗塞の後遺症で右半身に片麻痺が残り, 寝たきりの状態である。2年前に右小脳梗塞ならびに左内頸動脈塞栓症を発症し, 入院先の病院にて摂食嚥下リハビリテーションを実施するが, 誤嚥性肺炎を発症したため胃ろうを造設した。その後, 在宅にて療養生活を送っていたものの, 口から食べ物を食べたいということで当院による訪問歯科診療を受診した。初診時の口腔内所見は上下無歯顎で上下の総義歯を使用していた。口唇, 頬および舌に運動障害があり, 運動性失語があるもののコミュニケーションは可能であった。
嚥下の状態は反復唾液嚥下テスト (以下RSSTと略す) と改訂水飲みテスト, 頸部聴診で評価した。診査結果からまずは口唇, 頬の可動域訓練と舌の筋力負荷訓練などの間接訓練を行い, その後機能の改善がみられたところでVEを行うこととした。リハビリテーションと並行して大学病院の摂食機能療法科の歯科医師によるVEを実施し, 直接訓練の食形態とリハビリテーションの実施内容を検討した。その後も, 月に1度の間隔でVEを行い, 回復状況を確認しながら徐々に食形態を改善し, 食事量を増やしていった。その結果, 本症例は胃ろうから経口摂取へと栄養摂取方法を変更し, また血清アルブミン濃度も3.4 g/dlから3.8 g/dlに増加するなど, 低栄養状態を改善することもできた。その後, リコールに移行してから1年が経過しているが, 摂食·嚥下機能と全身状態は良好な経過を維持している。