抄録
抗 IL-6 受容体抗体のトシリズマブは関節リウマチ(RA)に対し高い寛解度を示すが,重症感染症を惹起するとされ,炎症の臨床症状や検査所見をマスキングすることも指摘されている。今回われわれは,トシリズマブ使用中に発症した下顎骨骨髄炎の 1 例を経験したので報告する。 患者は 82 歳,女性。主訴は開口障害。既往歴に 1970 年頃より RA があり,2009 年 9 月よりトシリズマブ(8 mg/kg/4 週)を開始していた。2012 年 6 月に右側頰部腫脹が著明に増大したため,精査加療目的に当科へ紹介され初診となった。初診時より RA 主治医と相談し治癒不全,易感染性および炎症症状のマスキングを考慮しトシリズマブを休薬した。クリンダマイシン(600 mg/日)・アンピシリンナトリウム(4 g/日)・クラリスロマイシン(400 mg/日)による化学療法を施行した,トシリズマブ(8 mg/kg/4 週)は原因歯の治療が終了して 4 カ月後より再開した。現在まで再燃傾向は認めない。 トシリズマブ使用は,高齢者や副腎皮質ステロイド使用者では感染症のリスクがより増加すること,慢性病巣の急性転化や急激な感染拡大に注意が必要であることが示唆された。また,マスキングにより臨床所見が典型ではないため臨床症状・血液検査所見・画像検査所見を組み合わせて,診断や治療効果の判定に十分な観察が必要であった。 生物学的製剤の使用頻度は増加傾向にあり,今後は本症例のように歯性感染症からの重症感染症に至る症例の増加が予想される。