老年歯科医学
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29 巻, 3 号
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総説
原著
  • 山田 素子, 臼田 頌, 森下 仁史, 潮田 高志
    2015 年 29 巻 3 号 p. 282-287
    発行日: 2015/01/14
    公開日: 2015/01/21
    ジャーナル フリー
    寝たきり老人では,長期にわたり口腔内の歯科治療管理が行われないことが多く,補綴物や歯の鋭縁等による口腔内の疼痛,出血,潰瘍が生じることがある。その場合,早急に補綴物等の除去,削合等により原因の除去を行う必要があるが,全身状態が悪く嚥下障害を伴っている症例では,注水下での切削により注水液誤嚥のリスクが発生する。そこで,口腔内の吸引を 2 系統にした場合の吸引効果に関して検討したところ,有意な結果が得られたので報告する。 正常嚥下が可能な健常成人 26 歳〜57 歳の男女 10 名からなる被験者を水平位とし,貯留唾液を嚥下させた後,下顎左側第一大臼歯咬合面上で注水下にタービンを 1 分間空回転させた。同一の被験者で 4 方法の手技で口腔内の吸引を行い,口腔内に貯留した液を計量,比較検討した。手技 1;吸引の 1 系統として左側第一大臼歯の頰側に吸引管(通称バキュームチップ)を配置。手技 2-1;1 系統目の吸引に加え,舌側のタービン近くに 2 系統目の吸引管を配置。手技 2-2;2 系統目の吸引管をタービンより約 5mm離し舌側に配置。手技 2-3;2 系統目の吸引管を舌根部脇に配置。 手技 2-1・2-2・2-3の口腔内の平均貯留液量は手技 1 に比べ有意(p<0.01)に低い値を示した。このことにより,注水切削時の吸引を 2 系統使用する方法は,注水液の咽頭への流入を防止する効果が高いことが判明した。
臨床報告
  • 林 宰央, 恩田 健志, 大金 覚, 藥師寺 孝, 髙野 伸夫, 柴原 孝彦
    2015 年 29 巻 3 号 p. 288-295
    発行日: 2015/01/14
    公開日: 2015/01/21
    ジャーナル フリー
    抗 IL-6 受容体抗体のトシリズマブは関節リウマチ(RA)に対し高い寛解度を示すが,重症感染症を惹起するとされ,炎症の臨床症状や検査所見をマスキングすることも指摘されている。今回われわれは,トシリズマブ使用中に発症した下顎骨骨髄炎の 1 例を経験したので報告する。 患者は 82 歳,女性。主訴は開口障害。既往歴に 1970 年頃より RA があり,2009 年 9 月よりトシリズマブ(8 mg/kg/4 週)を開始していた。2012 年 6 月に右側頰部腫脹が著明に増大したため,精査加療目的に当科へ紹介され初診となった。初診時より RA 主治医と相談し治癒不全,易感染性および炎症症状のマスキングを考慮しトシリズマブを休薬した。クリンダマイシン(600 mg/日)・アンピシリンナトリウム(4 g/日)・クラリスロマイシン(400 mg/日)による化学療法を施行した,トシリズマブ(8 mg/kg/4 週)は原因歯の治療が終了して 4 カ月後より再開した。現在まで再燃傾向は認めない。 トシリズマブ使用は,高齢者や副腎皮質ステロイド使用者では感染症のリスクがより増加すること,慢性病巣の急性転化や急激な感染拡大に注意が必要であることが示唆された。また,マスキングにより臨床所見が典型ではないため臨床症状・血液検査所見・画像検査所見を組み合わせて,診断や治療効果の判定に十分な観察が必要であった。 生物学的製剤の使用頻度は増加傾向にあり,今後は本症例のように歯性感染症からの重症感染症に至る症例の増加が予想される。
  • 山添 淳一, 平塚 正雄, 二宮 静香, 左 真奈美, 高倉 李香, 北川 順三, 氷室 秀高, 名城 嗣麿, 山川 宏美, 竹島 勇, ...
    2015 年 29 巻 3 号 p. 296-301
    発行日: 2015/01/14
    公開日: 2015/01/21
    ジャーナル フリー
    虚血性心疾患は一般的に胸痛を伴うが,自覚症状が現れない場合があり,無症候性心筋虚血と分類される。また,虚血性心疾患は既往歴の有無が発生リスクに大きく影響する。心疾患の既往がない脳血管障害後遺症患者で,気管支肺炎加療目的の入院中に無症候性心筋梗塞を発症した症例を経験したので報告する。 患者:86 歳,女性。来院時の血圧:132/89 mmHg,SpO2:89%,体温:38.4℃,CRP:23.61 mg/dl。口腔乾燥は著明で嚥下反射惹起性は低下しており,また食事の経口摂取は困難であった。 誤嚥性肺炎が疑われて入院となり,入院加療後,肺炎症状は改善したが,経鼻経管栄養が14日間継続され,口腔機能の廃用が進んだ。主治医の依頼を受け,摂食機能療法,口腔ケア,義歯の調整を行うこととなった。入院 18 日目,午前中に摂食機能療法,義歯調整を行ったが,気分不良等の症状はなかった。しかし,同日の夕方に胸痛等の症状の訴えはなかったが,心電図の波形変化から心筋梗塞を発症していることが判明した。 循環器専門医の診察により梗塞発生後 5 日以上経過した亜急性前壁梗塞と診断された。 その後,無症状のまま,心不全や不整脈が現れることなく経過した。歯科診療を行う際には心拍,血圧,心電図,SpO2の監視下とした。 無症候性心筋梗塞のリスクを入院時から認識して義歯調整,摂食嚥下機能訓練を行うべきであった。多職種と連携して全身状態を総合的に判断するとともに,モニタリング機器を活用して歯科診療を行う必要があると考えられた。
活動報告
  • 栗原 由紀夫, 鷲巣 暢夫
    2015 年 29 巻 3 号 p. 302-306
    発行日: 2015/01/14
    公開日: 2015/01/21
    ジャーナル フリー
    三島市歯科医師会では,平成3年4 月より在宅者訪問歯科診療事業を開始した。 平成25年3月までの22年間,1,955 名の新規患者の診療に従事した。今回は,平成20年11月〜平成25年3月までの4年5 カ月間の患者554人について報告する。通院困難の原因は脳梗塞,大腿骨骨折,認知症と続く。主訴は義歯に関するものが68.3%と大部分を占めており,処置も義歯関連が多かった。一方,摂食嚥下障害に対するわれわれの認識は不十分である。他職種と協働して要介護高齢者を支えていきたい。
  • ―顎骨壊死発症歴のある在宅終末期がん患者の支援―
    龍口 幹雄, 大野 友久, 相澤 秀夫, 大野 守弘, 才川 隆弘, 永江 浩史
    2015 年 29 巻 3 号 p. 307-312
    発行日: 2015/01/14
    公開日: 2015/01/21
    ジャーナル フリー
    骨修飾薬(以下,BMA)は,骨吸収を阻害する薬剤である。骨関連事象を抑制し,患者の予後や生活の質の改善をもたらす大変有用な薬剤であるが,有害事象として顎骨壊死(以下,ONJ)の発症が問題である。BMA を安心して使用するには,ONJ の予防,ONJ 発症後の対応が重要である。静岡県西部地区では,浜松市歯科医師会を中心に BMA 投与に関する連携システムを構築し対応している。本システムを活用し,ONJ 発症後の終末期がん患者の在宅療養を支援することが可能であった症例について報告する。症例は 73 歳男性の終末期胸腺癌患者で,A 大学病院にて骨転移に対してゾレドロン酸を使用された。左下顎側切歯の抜歯後に ONJ を発症したため,ゾレドロン酸は中止となった。A 大学病院歯科口腔外科にてのちに腐骨除去された。その後,左下臼歯部に歯周炎による排膿があり,外来で定期的に洗浄および抗菌薬投与にて対応されていた。終末期となり A 大学病院に入院されたが,在宅療養を希望されたため退院。 ケアマネジャーの紹介により本システムを使用して歯科訪問診療にて対応した。数回の歯科処置を実施し,最期まで良好な口腔内環境を維持し経口摂取を支援できた。在宅療養を希望する終末期がん患者で ONJ を発症している,あるいはそのリスクがある場合,本システムは大きな支援となると考えられる。より多くの患者が恩恵を受けられるよう,今後も本システムの周知活動を各方面に続け,発展させていきたい。
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