抄録
今回私たちは,重度の COPD を合併する 90 歳の超高齢患者の口腔外科手術の全身麻酔管理を経験した。術前の呼吸器検査では 1 秒率が 33.6%,1 秒量が 1.09 L と低値を示したが,術前の呼吸器内科医による抗コリン薬投与により,1 秒率が 42.2%,1 秒量が 1.36 L に改善した。 麻酔は肺損傷を回避し,術後の呼吸抑制の予防と早期離床のため,良好な覚醒を心がけた。麻酔維持は酸素,空気,セボフルラン,レミフェンタニルにて行ったが,フェンタニルは用いず,筋弛緩薬の使用は導入時のみとした。術中の人工呼吸は PEEP を使用せず,高炭酸ガス血症は容認し,気道内圧を低く保ち,肺損傷を予防した。これらの配慮により所定の手術を無事に終了することができ,覚醒も良好であった。 翌日の昼までは飲水可能だったが,午後,服薬の際,水でむせとともに嘔吐した。更にその夜,うがいの際,水でむせ,第 2 病日の午後に誤嚥性肺炎と診断された。酸素,抗菌薬投与が行われ,1 週間後には回復した。第 9 病日には患者は嚥下造影検査を受け,誤嚥の所見はなかったが,右梨状窩に食物の残留がみられた。 本症例の誤嚥性肺炎の発症原因として舌癌切除術後の嚥下能低下における経口摂取尚早が考えられる。また全身麻酔後の誤嚥性肺炎のリスクファクターとして,COPD の合併,高齢,男性,脳梗塞の既往,口腔外科手術を挙げる報告や,抗コリン薬が嚥下機能を低下させるという報告があり,背景因子としてそれらが関係していると思われた。