老年歯科医学
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臨床報告
顎口腔領域の重症感染症後に舌圧低下を認めた高齢患者に対し,舌圧測定での定量的評価を行った1例
内藤 久貴谷口 広祐朴 真実中島 健
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2020 年 35 巻 2 号 p. 135-141

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抄録

 超高齢社会を迎えた日本において,今後,高齢者の顎口腔領域における重症感染症を経験する機会は増加する可能性がある。顎口腔領域の感染症では,咀嚼筋群や舌機能を規定する舌骨上筋群への炎症波及により,摂食・嚥下機能の低下をきたす恐れがあるが,当領域での感染症治療後に舌機能の定量的な評価を行った報告はきわめて少ない。舌圧測定は慢性的な筋力低下のある高齢者や脳血管障害,神経筋疾患患者の口腔機能評価に用いられている侵襲の少ない評価法である。そこでわれわれは,顎口腔領域の感染症治療後に舌圧測定を実施し,舌機能が摂食・嚥下機能に与える影響を定量的に評価した。

 症例は,86歳女性で右側顎下部の重症感染症にて当院に救急搬送された。気道狭窄および右側口底蜂窩織炎に対し,全身麻酔下で気管切開術,口腔外切開排膿消炎術を行った。術後創部洗浄を継続し消炎確認後,舌圧測定を行ったところ16.0 kPaと低値を認めた。このため,舌圧強化目的に間接訓練を実施し,定期的な舌圧評価を行った。その結果,舌圧が次第に上昇し,食形態をペースト食から常食まで段階的に上げていくことができた。以上のことから,顎口腔領域における重症感染症の治療後は低舌圧を併発する場合があり,摂食・嚥下機能に影響する可能性が示唆された。また,その客観的評価に舌圧測定が有効であると考えられた。

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© 2020 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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