老年歯科医学
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認定医審査症例レポート
舌部分切除後の高齢者に対して舌の機能印象を用いた下顎義歯によって準備期障害を代償した症例
野村 太郎古屋 純一
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2022 年 36 巻 supplement 号 p. 118-123

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抄録

 緒言:高齢者で多い舌部分切除術では,舌の可動範囲や形態の変化に伴って,摂食嚥下障害が惹起されることが少なくない。今回,舌部分切除術後に生じた高齢者の摂食嚥下障害に対して,舌の機能印象を用いて下顎義歯を製作することにより,準備期障害を改善した1例を報告する。

 症例:舌部分切除術後の70歳男性。下顎義歯舌側への食渣滞留を訴えて当科受診となった。使用中下顎義歯の右側舌側研磨面と舌側縁の間には,切除後の舌の体積減少による間隙が生じており,主訴の原因と考えられた。咽頭期障害はなかったため,不適合義歯を原因とした準備期障害と診断し新義歯を製作することとした。

 経過:本症例は舌切除術後,舌の体積減少により生じた舌と義歯の間隙をいかに義歯で代償するかを考慮して義歯製作を行った。下顎義歯製作過程において,舌接触補助床の製作方法を応用し,下顎ろう義歯の舌側研磨面にティッシュコンディショナーを貼付し舌の機能印象を行い最終義歯の形態に反映させたところ,良好な経過を得ることができた。

 考察:一般的に下顎義歯舌側研磨面形態はやや凹面に設定するが,本症例ではそのような形態では舌と義歯の間に大きな間隙が生じ,食渣滞留が生じていると考えられた。そこで,舌の部分切除により生じた舌機能低下を下顎義歯研磨面の形態で代償した結果,主訴の改善を認め患者のQOL向上に寄与することができた。

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© 2022 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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