2022 年 36 巻 supplement 号 p. 114-117
緒言:高齢者の摂食嚥下障害における最大の原因疾患である脳卒中は長期間の療養を要し,療養環境が変わることが多い。今回,摂食嚥下リハビリテーションによって,食に対する患者の希望を実現することで,普通食の摂取が可能となった症例を報告する。
症例:脳卒中発症3日目に歯科受診となり,口腔管理と摂食嚥下リハビリテーションを言語聴覚士とともに開始し,ゼリーを用いた直接訓練が可能な段階まで改善した。転院先の回復期病院には歯科がないため,看護師と言語聴覚士に情報提供を行い,継続した口腔管理と嚥下リハビリテーションを訪問診療にて行い,早期の自宅退院を支援した。回復期病院入院中から食事への不満が聞かれており,生活期の自宅への訪問診療の際に,市販の嚥下調整食を勧めたが,患者の嗜好に合わず,対応に難渋した。
経過と考察:急性期,回復期の継続的な摂食嚥下リハビリテーションによって経口摂取を回復できたが,生活期の自宅に戻ると食事への不満が強くなった。そのため,患者の希望する食事内容の調理方法と摂食方法を介護者に指導することで,日常生活のなかで段階的摂食訓練を継続し,最終的には患者の食に対する希望を実現できた。本症例から患者の希望は嚥下訓練ではなくあくまでも生活の一部として好きな食事をすることであり,それを可及的に実現したかかわり方が重要であることが示唆された。