2024 年 39 巻 supplement 号 p. 101-105
緒言:高齢者施設には職員による口腔清掃介助を必要とする入所者がいる一方で,拒否によって介助が困難な者もいる。我々は,開口拒否を認める施設新規入所者に歯科訪問診療で対応した1例を経験したので報告する。
症例および経過:患者は74歳女性。既往歴に認知症と脳梗塞後遺症がある。開口拒否による口腔清掃や食事の介助が困難であることから,施設職員から歯科訪問診療の依頼があった。口唇に触れると強く閉口するため,口腔保湿剤を塗布したスポンジブラシを口腔内に入れ,脱感作後に歯石除去を実施した。職員には食前と口腔ケア前に口腔内マッサージを実施することと,歯ブラシとスポンジブラシを併用した口腔ケアを指導した。左傾斜や頭部後屈がみられる食事姿勢を改善するための指導も実施した。その結果,施設職員による口腔ケアと食事の介助が可能となった。
考察:日常生活が制限されてしまう要因として認知症,脳梗塞後遺症,転倒・骨折などが挙げられる。これらの疾患に起因する,心身レベル低下後の歯科治療は困難な場合が多く,限られた状況に対応するための選択肢の幅が狭くなりうるなかで,歯科医師として各個人の状況に応じた最善策が求められる。本症例では患者の認知症高齢者の日常生活自立度がⅣであることを考慮し,意思疎通が困難であっても,施設職員が実施できる方法を模索して指導したことが,適切な口腔ケアと食事介助を可能にしたものと考えた。