背景:認知症高齢者の口腔管理は,セルフケア能力の低下による歯周病リスクの増大と,口腔機能低下という2つの課題に直面する。歯科専門職には,炎症コントロールに加え,機能低下をいかに管理するかが問われている。
症例:患者は75歳男性,アルツハイマー型認知症。重度の歯周炎に対し,キーパーソンである妻の協力の下,全顎的な歯周基本治療を実施し,SPTへ移行。プラークコントロールは良好に維持され,歯周組織は安定した。その後,口腔機能は低下し,約1年後に窒息および誤嚥性肺炎を発症した。SPT中の「むせ」の観察をしていたものの,この重篤なイベントを防ぐことはできなかった。
結論:本症例は,認知症患者においても適切なプロフェッショナルケアで歯周組織の安定は可能である一方,それだけでは口腔機能低下を防げない,という現在の歯科医療が直面する限界を明確に示した。歯科専門職には,炎症コントロールにとどまらず,機能低下に早期に気づき多職種と連携する役割を担うことを示唆している。しかし本症例は,主訴の内容にかかわらず,介入初期の段階で口腔機能のベースライン評価を行い,その後の変化を多職種と連携しながら長期的に追跡管理することの重要性を示唆している。