抄録
【目的】高齢者では, ADLが低下し自立性が損なわれることが問題である。ADL低下の原因となる栄養状態や体力の低下には, 咀嚼能力が関連すると考えられる。自己評価に基づく咀嚼能力 (自己評価咀嚼能力) は簡便な問診により評価する方法であり, 集団検診に適している。本研究では, 自立高齢者の自己評価咀嚼能力と, 栄養状態および体力との関連を明らかにする。
【方法】自立高齢者315名 (65~84歳) を対象とした。調査項目は, 背景因子, 食習慣, BMI, 血清アルブミン値, 握力, 開眼片足立ち秒数, ならびに口腔内因子 (アイヒナーの分類, 義歯の使用状況, 自己評価咀嚼能力) とした。このうち自己評価咀嚼能力は, 「何でも噛める」を良好群, 「少し硬い物なら噛める」を概良群, 「柔らかい物しか噛めない」を不良群とした。
【結果】前期高齢者の男性では, BMIおよび血清アルブミン値とも自己評価咀嚼能力の良好群あるいは概良群に比べ, 不良群で有意に低下していた。女性では, 握力が良好群に比べ概良群で有意に低下していた。男女ともその他の項目に有意差はみられなかった。後期高齢者では, 女性のBMIで有意差がみられたが, その他の項目では有意差はみられなかった。咀嚼能力の低下には, 独居, 咬合支持がない, 義歯の使用状況 (未使用あるいは不適合を自覚) が関連していた。
【まとめ】自己評価咀嚼能力の不良であるものが, 約1割みられた。自己評価咀嚼能力は, 前期高齢者では栄養状態や体力に関連する重要な因子の一つであることが示唆された。