1990 年 4 巻 1 号 p. 84-88
当センターの診療システムの考え方の基本であるリハビリテーション歯科診療は, 人間らしく生きる権利の獲得あるいは回復を目指すことである。それは単に機能・形態障害の問題としてとらえるだけでなく, 能力障害・社会的不利の三つのことなるレベルから高齢者の問題を考える必要がある。今回は食べるということについて一つの症例を通して考えた。
1. 高齢者の摂食機能訓練において, 脳卒中片麻痺患者では, 運動機能の低下を回復するものであったが, Alzheimer病においては, 口腔周囲感覚の異常と考えられる過敏が摂食機能を阻害しているのがみられた。
2. 摂食機能訓練開始以前は, 食物形態が普通食で刺激が強く, 摂食が苦しい体験となり口を開こうとしなくなる。
3. 摂食指導後は, 食物形態が刺激の少ないドロドロ食に改善され, 自分で上下口唇を使って食物を取り込み, 嚥下が滑らかになり, 摂食時間が短縮され, 介助者も余裕が持てるようになる。
4. 主体性がすらいでくる高齢者患者においては, 食事を自分の口唇で取り込むことが心身の自立を保ち, 生きようとすることへの援助と考える。