抄録
69歳女性の左側に生じた鼻歯槽嚢胞の1例を経験したので, その概要を報告する。症例: 69歳, 女性。初診: 平成元年6月26日。主訴: 1部歯肉の腫脹。既往歴: 高血圧, 糖尿病にて内服治療中, 36歳時に卵巣嚢腫の手術を受けた。家族歴: 特記すべき事項なし。現病歴: 初診の約1ヵ月前に左側鼻翼基部に無痛性の腫脹を気付くも放置する。5日前より, 同部の腫脹が著明になり某歯科医院より当科を紹介され来院する。現症: 顔貌には, 左側鼻翼基部および, 左側鼻孔底部に軽度の圧痛を伴ったび慢性の腫脹がみられ鼻唇溝はやや不明瞭であり, 鼻前庭部にわずかの腫脹を認めた。口腔内所見では, 1-3部相当の歯肉唇移行部に大豆大の腫脹がみられ, 波動を触知した。X線写真所見: オルソパントモ, 口内法では骨に異常所見は認められなかった。処置および経過: 鼻歯槽嚢胞の臨床診断のもとに, 局麻下で嚢胞摘出術を施行した。
現在, 術後2年2ヵ月経過し経過良好である。病理組織所見: 嚢胞壁は厚い線維性結合織よりなり, その中に, 拡張血管, 小円形細胞の浸潤をみた。裏装上皮は, 多列繊毛上皮であった。病理組織診断: 鼻歯槽嚢胞。