高齢化社会の到来とともに老年者の医療に対する関心の高まりは, 単に医学にとどまらず, あらゆる分野に及んでいる。したがって, 老年歯科領域においても, 老人の健康を保っ意味で歯科医療の役割は重要なものと考えられる。その際, 口腔領域の老化現象を全身と切り離して論じたり, またこれを全身の一部と見なす場合も, これを身体的なものと精神的なものとに分けて論ずることは不可能と思われる。そこで我々は, 養護老人ホームの入所者80名に対し, 口腔内診査および調査を行い, その結果と身体的・精神的背景との関係について検討を行い, 次の結論を得た。
1) 老人性痴呆の進行に伴い, 生き甲斐および咀嚼能率の低下が認められた。
2) 内科疾患を有する者, 特に心疾患群では, 口腔内ケアーが放置されているケースが多かった。しかし, 咀嚼能率は高い傾向が認められた。
3) 機能障害を伴う者, 特に脳血管障害後遺症群では, 口腔内ケアーが放置されている場合が多く, さらに, 咀嚼能率の低下も認められた。
4) 未処置の残存歯を有する者は, 機能障害の無い場合よりも, 機能障害の有る場合に多く認められた。
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