抄録
近年, 急激な高齢化社会の到来をふまえて在宅有病高齢者の歯科保健ならびに在宅歯科医療に対する関心が高まっている。在宅歯科医療は従来その困難性により個人開業医等によるボランティア的活動にとどまってきたが, 社会的ニーズの高まりや国の老人保健政策の推進とそれに呼応した歯科医師会の社会的使命感と関心の高まり等により, 地域歯科医療の一環としてとらえ, 組織的に取り組もうとする気運が全国的なレベルで芽ばえ, 各地において先進的な試みがなされているのが現状である。
しかしながら, 診療効率と診療環境の悪さ, ハイリスク患者を取りあっかうといった困難性が多大であるという点や, 市民に公平に在宅歯科医療を供給する必要性があるということ, また事業の永続性等を考えた場合, 歯科医師会が会としてこの事業に取り組むにあたって慎重かっ細心の配慮が必要になってくる。
豊中市は国の在宅寝たきり老人歯科保健推進事業のモデル地区として, 在宅歯科医療にたずさわり歯科医師会活動として4年にわたり実施してきたが, その経験から会として本事業を実施するにあたってどのような考え方をベースに進めるべきかを述べてみたい。
在宅歯科診療終了後の患者の経過を調査したところ相当数の患者が比較的短期間を経て死亡していることがわかった。まさに在宅歯科医療は危険と隣り合わせにいるということができる。本事業実施後のさまざまな問題点について提起し, 今後の在宅歯科医療のよりよき発展をめざす議論が活発になることを切望する。