老年歯科医学
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痴呆の程度と歯科受療に必要な能力
鈴木 章久野 彰子河原 正朋菊谷 武稲葉 繁大竹 登志子小林 充川島 寛司山内 悦
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1994 年 9 巻 2 号 p. 97-103

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抄録

人口高齢化が進んでいる我が国では, 痴呆老人の増加も予測されている。これは, 痴呆性老人の出現率は5~7%とされているが, 80~84歳では約15%, 85歳以上では20%に達するからである。今後自分の歯を持つ高齢者が増えると予測される中で, 歯科治療が必要な痴呆老人への対応も必要とされる。
そこで, 痴呆の程度が及ぼす歯科治療への影響を把握することを目的として本研究を行なった。対象者は特別養護老人ホームの入所者89名であった。痴呆老人が持つ歯科処置や診療を受ける能力を歯科医師が調査し, 精神科医師により判定された痴呆の程度と比較した。これらの結果から痴呆老人への歯科受療の可能性を検討し, 以下の結論を得た。
1. 痴呆老人の歯科処置・診療を受けるのに必要な能力指数 (Dental Index Scorefor Patient with Dernentia: DISPD) と痴呆の程度との間には相関 (相関関係0.636p=0.001) が認められ, 痴呆が高度になるにつれ歯科処置・診療を受けるのに必要な能力も低下した。
2. 口腔を清潔に保っための能力は, 軽度の痴呆では約半数の人が保持していたが, 痴呆が進むにつれ介助が必要な人の割合が増加し最高度の痴呆では全員が全介助であった。
3. 主訴の表現能力は, 軽度では80%が持っていたが, 痴呆が高度になるにつれ表現能力は低下し, 最高度では一人もいなかった。
4. 診査・診断を受ける能力は, 最高度の痴呆で37%と低いものの, 軽度から高度まではどの痴呆の程度にも85%以上の人が有していた。
5. 顎位を保持する能力は, 最高度の痴呆で37%と少ないものの, 痴呆が無い場合も含めて高度まではどの痴呆の程度にも80%以上の人が有していた。
6. 患者と歯科スタッフの安全を守るための能力では, 常に攻撃的な人が最高度に1人認められたほかは, 何れの痴呆の程度にも10%程存在した。
7. 最高度の痴呆を除いて, 十分な介助と注意深い観察の下であれば, そして痴呆に関する知識と技術を持つ歯科医師であれば, 痴呆の程度に関係なく80%の痴呆老人へは歯科治療が可能であると考えられた。

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© 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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