遺伝性網膜ジストロフィ(inherited retinal dystrophy: IRD)は、原因遺伝子および表現型の多様性を特徴とする疾患群であり、眼科領域の代表的な遺伝性疾患である。2023年にRPE65遺伝子関連網膜症に対する遺伝子補充療法が本邦で承認されたことを契機に、治療適応判断を目的とした遺伝学的検査が保険診療下で導入され、IRD診療における遺伝学的検査の位置づけは大きく変化した。本稿では、IRDの臨床的・遺伝学的背景を概説するとともに、現在実施されている遺伝学的検査の運用体制、結果解釈の枠組み、ならびにその課題について述べる。
保険診療下で遺伝学的検査が実施されるようになった一方、現状では検査適応の限定に加え、検査施設の地域偏在や人材の制約もあり、多くのIRD患者が遺伝学的診断にアクセス困難な状況が続いている。また、結果解釈や解析の限界から一定数生じる原因未同定例への対応も課題である。今後は、検査適応の拡大、人材育成と診療体制の均てん化、ならびに解析技術の進歩を通じて、IRD診療における遺伝学的診断のさらなる発展が期待される。