日本遺伝子診療学会誌
Online ISSN : 2759-6060
最新号
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巻頭言
原著
  • 宮 冬樹
    2025 年2 巻1 号 p. 2-6
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    次世代シーケンス手法の分析的妥当性を検証するためには、バリアント情報が既知のゲノムDNAを用いて、そのバリアントが正しく検出されるかどうかを検討する必要がある。Genome In A Bottle(GIAB)というアメリカ国立標準技術研究所(NIST)のコンソーシアムが公開しているヒト標準ゲノムのベンチマーク用バリアントは、分析的妥当性の検証に最適である。ここでは、われわれの実施例を元に、次世代シーケンス手法の分析的妥当性の検証方法および結果、そして全国各施設で分析的妥当性の検証が可能であることを提示する。さらに、施設としての分析的妥当性、すなわち患者の表現型に基づいて病的バリアントを正しく検出できるかどうかについて、われわれが今回イギリスのGenQAという外部精度評価(EQA)機関を利用した例を示し、バリアントデータを用いた次世代シーケンス手法の分析的妥当性の検証方法について考察する。

  • 小田 いつき, 團野 大介, 多田 陽香, 池川 敦子, 中村 朱美, 北村 重和, 平野 牧人, 寒川 真, 竹島 多賀夫, 永井 義隆, ...
    2025 年2 巻1 号 p. 7-11
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】日本人の片頭痛有病率は8%であり、病型分類の中には遺伝性も存在し、原因遺伝子が報告されている。しかし、片頭痛の遺伝学的検査による診断は積極的に行われておらず保険適応の対象ともされていない。本研究では、片麻痺性片頭痛(Hemiplegic migraine: HM)と診断された患者を対象に、片頭痛を伴う疾患やチャネル病の遺伝子の遺伝学的検査を行った。その解析で検出された遺伝子やバリアント評価について報告する。

    【方法】HMと診断された45症例を対象に家族性片麻痺性片頭痛(Familial hemiplegic migraine: FHM)の中で原因遺伝子(CACNA1A, ATP1A2, SCN1A)を含めたチャネル病やてんかん・神経疾患に関わる遺伝子など約320遺伝子を対象に網羅的に遺伝学的検査を行った。遺伝学的検査は末梢血由来DNAを用いて次世代シークエンサーで解析した。

    【結果】FHMの原因遺伝子とされるATP1A2は5症例、SCN1Aは4症例でバリアントが検出された。その他にも、チャネル病に関与する遺伝子もバリアントが検出された。チャネル病に関する遺伝子の中、ATP1A3で検出されたバリアントは病的意義不明(Variant of uncertain significance: VUS)な評価であった。

    【考察】本研究では、FHMやそれ以外のてんかんや神経疾患に関わる遺伝学的検査を行い、複数のバリアントが検出されたが、VUSの評価となるバリアントであった。これらのことよりバリアントを蓄積し、遺伝型と表現型との相関を明らかにすることで、最適な治療選択や頭痛以外の臨床症状に対する予防的な検査に繋がると考える。

解説
報告
  • 才津 浩智
    2025 年2 巻1 号 p. 15-18
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    令和5年に施行されたいわゆるゲノム基本法のもと、ゲノム情報を診断や治療法の選択に用いるゲノム医療が今後更に加速することが期待されている。本稿では、日本遺伝子診療学会が認定する資格であるジェネティックエキスパート認定制度の目的とゲノム医療で求められる役割、および認定制度委員会が企画する臨床遺伝情報検索講習会での取り組みについて紹介する。また、委員会が考える、遺伝性疾患の遺伝学的検査におけるジェネティックエキスパートの求められる役割についても述べる。

  • 柿島 裕樹
    2025 年2 巻1 号 p. 19-22
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    現在、がんゲノム医療における、がんの包括的ゲノムプロファイリング(Comprehensive Genome Profiling:CGP)検査は、次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer:NGS)を用いて実施されている。CGP検査は、検出バリアントの医学的解釈が加わることから、バリアントのエビデンスの種類やレベルによって患者対応が異なるがゆえに、様々な部門が関わる点が特徴である。

    日本遺伝子診療学会のジェネティックエキスパート認定制度は、到達目標にゲノム医療において必要とされる知識を網羅しており、ヒトの遺伝子診療に貢献する重要な位置付けの認定制度として注目される。がんゲノム医療への参画や人材育成において活用したい。

  • 有働 恵美子
    2025 年2 巻1 号 p. 23-26
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    わが国では2019年に固形がんを対象にしたがんゲノムプロファイリング検査(以下、CGP検査)が保険適用となり、5年が経過した現在(2024年12月)では日常の診療に浸透しつつあります。また、最近では造血器腫瘍を対象としたパネル検査の開発や、がん・難病等の克服を目指した全ゲノム解析の推進計画など、新たな展開が進んでいます。

    がんゲノム医療の開始からその運用構築や精度管理に携わってきた上で、今後さらに転換期を迎えようとするゲノム医療の現場において、より柔軟に対応できるスキルを身につけたいと考え、本認定試験を受験致しました。

    認定試験を経験して有意義であったことは、合格を目指す過程において、遺伝子診療全般の基盤となる知識を習得し、実務における検査結果をより俯瞰的に捉えることができるようになったことです。一人の検査技師として、自ら解析結果を解釈できるようになった強みを得たと共に、CGP検査を運営するチームの一員として、その役割を強化することへつながりました。

    本稿においては、これまで主にがんゲノム医療に従事してきた経験に基づいて、認定制度の受験に至った動機や、感想などについて述べさせていただき、これから受験を考えていらっしゃる方のお役立ての一助になれば幸いです。

  • 村瀬 悠理
    2025 年2 巻1 号 p. 27-29
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    私は臨床検査技師として遺伝学的検査に携わりながら、2022年に認定遺伝カウンセラーの資格を取得した。それにより、検査業務に加え、医療機関との連携や結果報告書の作成、クライエントへの情報提供方法に関する相談対応など、業務の幅が広がった。こうした経験を通じて、より正確かつ分かりやすい情報提供や、検査結果の解釈に基づいた適切な支援を行うための知識とスキルの向上が必要であると感じたことが、ジェネティックエキスパートを目指すきっかけとなった。試験を通じて得た知識とスキルにより、症例をより深く理解し効率的に業務を進められるようになった。遺伝医療は多くの分野にまたがるため、広い知識を持ち多職種と連携できる人材が求められる。ジェネティックエキスパートはその役割を担う存在であり、私自身も今後さらに学びを深めながら、遺伝医療に貢献していきたいと考えている。

  • —遺伝子関連検査に関わる視点から—
    菊地 茉莉
    2025 年2 巻1 号 p. 30-33
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    認定遺伝カウンセラーは、日本人類遺伝学会および日本遺伝カウンセリング学会が共同認定する資格である。医療、理工学、教育・心理学などと多様な経歴を持ち、遺伝カウンセリングの専門家として医療機関や教育・研究機関、企業で活躍している。医療機関では、診療における患者対応はもちろん、体制構築や遺伝学的検査の管理・結果解釈などを担う者も多く、昨今の遺伝医療の発展に貢献している。

    当院の遺伝子診療センターは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが中心となり、幅広い領域の遺伝カウンセリングを提供し、関連部署と協力して、遺伝子診療支援や教育・研修に対応している。センター設立以降に遺伝カウンセリングや遺伝学的検査の運用体制の整備を行ってきた。

    遺伝学的検査の運用については、臨床検査部と協働し、臨床検査技師と認定遺伝カウンセラーが連携し、医療安全を担保しながら、臨床への還元のためにきめ細やかな対応を心がけている。遺伝学的検査結果の解釈についても、認定遺伝カウンセラーが支援を行うことで、医師と協働して遺伝医療を支えている。

    筆者は、今後も専門性の向上とチーム医療の推進により、院内の課題解決に取り組み、患者や家族のニーズに沿った遺伝医療を提供することを目指したい。

  • 中西 勝幸
    2025 年2 巻1 号 p. 34-37
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    2024年9月7日に高崎にて開催された日本遺伝子診療学会の2日目のシンポジウム6は「臨床検査の品質保証~IVDキット製品開発秘話や受託検査の精度管理実録秘話等~」と題し、診断薬メーカー、検査センター、研究機関から発表、討議がなされた。当社はメーカー視点からコンパニオン診断薬の開発~市販後において苦労している点を紹介した。以下報告は当日発表を一部抜粋したものである。

  • 久郷 佳央梨
    2025 年2 巻1 号 p. 38-41
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー
  • 岡崎 哲也, 別府 弘規, 糸賀 栄, 山口 敏和, 有田 美和, 横井 左奈, 相澤 弥生, 德富 智明, 中國 正祥, 西田 美和, 藤 ...
    2025 年2 巻1 号 p. 42-45
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    2022年3月に改定された日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(以下ガイドライン)において、遺伝学的検査の匿名化が“必須ではない”ことが示された。このことを受け、2024年9月に開催された第31回日本遺伝子診療学会大会内で、同学会ELSI委員会企画として遺伝学的検査の実名実施に向けた現状と課題に関し、委員からの発表ならびに総合討論を行った。ガイドライン改定の背景の記載にあるように、医療安全の観点から匿名での遺伝学的検査実施による取り違えのリスクや、家系員が他施設で遺伝学的検査を実施する際の本人確認の課題といった内容が共有された。遺伝学的検査以外の検体検査を取り扱っている登録衛生検査所では、実名の取り扱い体制を既に有していることが示された。当委員会委員が所属する医療機関で既に実名での遺伝学的検査を実施している施設があった一方で、実名での遺伝学的検査実施に向けた取り組みがこれからという医療機関もあった。今回の学会企画の内容から、現在はガイドライン改定後の過渡期にあることが示された。今後、それぞれの登録衛生検査所及び医療機関が、遺伝情報の特性に留意しつつ現場の実情に即した運用体制を構築していくことが望まれる。

  • 田中 真生, 野本 順子, 佐藤 奈穂子, 辻 省次
    2025 年2 巻1 号 p. 46-49
    発行日: 2025/03/18
    公開日: 2025/04/03
    ジャーナル フリー

    次世代シーケンサーによる網羅的ゲノムシーケンス解析は、遺伝性疾患の診断においてなくてはならない検査手法となっているが、商用の体外診断薬・医療機器としての提供が困難であることから、衛生検査所、医療機関、研究室において、Laboratory Developed Test (LDT)として提供されているのが現状である。当研究所では、衛生検査所の資格を取得した上で、次世代シーケンサーを用いたエクソーム解析を、遺伝性疾患の診断を目的としたクリニカルシーケンスとして実施し、臨床医のニーズに応じた、柔軟性の高い検査として提供している。また、精度管理用ゲノムDNAを用いた内部精度管理を継続的に実施するとともに、外部精度管理としてCAPサーベイへの参加も行い、検査精度の維持、品質向上に取り組んでいる。一方で、遺伝性疾患の診断確定率の向上は、検査自体の精度管理、品質向上のみでは達成できず、検査前後の段階を含めた、総合的な取り組みが必須である。さらに、研究として位置づけられる解析にシームレスに移行できる体制の構築も重要となる。

編集後記
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