2022 年 40 巻 1 号 p. 1-9
リンパ漏は後腹膜リンパ節郭清術における比較的まれな術後合併症である.多くの場合症候性のリンパ漏となる前に漏出部位は自然閉鎖するが,遷延例では低蛋白症や免疫機能の低下をきたすため,速やかな対応が必要となる.今回子宮頸癌IIB期に対する骨盤リンパ節郭清を含む根治術を施行後に出現したリンパ腹水の制御に苦慮した症例を経験した.症例は41歳0妊.不正性器出血,子宮頸部腫瘤を認め当科紹介受診となった.子宮頸癌IIB期に対し術前化学療法後に骨盤リンパ節郭清を含む腹式広汎子宮全摘術及び両側付属器切除術を施行した.術後約2カ月後より著明な腹水貯留が出現し,3カ月間で計36 Lの腹水ドレナージを施行するも改善せず,腹水のリポ蛋白分析でカイロミクロンが検出され術後リンパ漏によるリンパ腹水と診断した.その後リンパ管塞栓術,さらに開腹下の検索によるリンパ管結紮術,最終的にはリンパ管静脈吻合術を施行することにより,腹水貯留再燃を来すことなく下肢リンパ浮腫も軽快した.リンパ節郭清術後の腹水貯留に際しては,乳糜の有無にとらわれることなくリンパ漏の可能性を念頭に置き,その病態を考慮した治療アプローチを進めることが重要である.