2024 年 42 巻 2 号 p. 94-99
概要:本研究では変異p53タンパク質により形成されるp53凝集体に着目した,全く新しい視点から見たp53変異卵巣癌の病態メカニズムの解明を目的とした.まず,卵巣高異型度漿液性癌のp53免疫組織染色を行なった.14/96例(15%)がp53核/細胞質陽性症例(N+C)であり,他群に比べ有意に無再発生存期間および全生存期間が不良であった(p<0.001).p53 N+C症例の細胞質において,タンパク凝集体形成を認識する抗体とp53の共沈着を認め,細胞質p53凝集体の存在が示された.次に,OVCAR-3細胞(p53変異あり)およびPC-3細胞(p53 null)を用い検討した.OVCAR-3の細胞質と細胞上清中にp53凝集体が発現しており,PC-3へのp53変異導入でも同様にp53凝集体が発現した.p53凝集体の細胞間伝播を確認し,p53凝集体の取り込みによりプラチナ抵抗性を獲得した.最後に,p53脱凝集剤ReACp53の効果について検討した.OVCAR-3やp53変異導入PC-3へのReACp53添加により,細胞内のp53凝集体が減少するとともに,p53が細胞質から核内に移行し細胞死が誘導され,プラチナ感受性が増強した.さらに,p53変異を有する卵巣癌患者のがん組織由来オルガノイド細胞においてもReACp53の抗腫瘍効果を認めた.本研究によりp53変異卵巣癌におけるp53凝集体の病態メカニズムの一端が解明され,p53変異卵巣癌の新たな分子標的治療の可能性が示唆された.