日本婦人科腫瘍学会雑誌
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創立25周年記念講演会
  • 片渕 秀隆
    2024 年 42 巻 2 号 p. 31-41
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会は,1975年8月に設立された「日本コルポスコピー研究会」を源流として「日本子宮頸部病理・コルポスコピー研究会」,「日本婦人科病理・コルポスコピー学会」へと発展し,さらに「日本卵巣腫瘍病理研究会」と合流した後,婦人科腫瘍学の先導者となるべく1998年7月に「日本婦人科腫瘍学会」と名称を定めたことがその礎となる.その後,「子宮癌研究会」,「日本婦人科悪性腫瘍化学療法学会」,「日本産婦人科腫瘍マーカー・遺伝診断学会」の4つの組織が加わって統合され,2013年11月に現在の組織へと発展した.この間,野田起一郎名誉会長のご教授の下,本学会への統合に全力を傾けられた故野澤志朗教授を初代とし,現在の三上幹男教授まで11人の歴代理事長の下で進化を遂げながら,2023年7月に創立から四半世紀を迎えた.

    2019年12月に始まった新型コロナウイルス感染症の歴史的パンデミックの最中に私が理事長を2年間務めたが,新しい「学会のかたち」を創造する好機でもあった.特に,コンピュータや情報通信等の技術的シーズと様々な社会的ニーズはコロナ禍の中で電子社会システムの構築と実践を加速させ,本学会においても迅速な対策が求められた.本学会の活動の主軸は婦人科腫瘍専門医の養成と婦人科がん治療ガイドラインであるが,2007年以降,指定修練施設で1,259名(男性:971名,女性:288名)が専門医資格を取得し,2002年から5つのガイドラインが順次改訂されている.この基盤の上に,理事会がナビゲートし30代・40代の若い力がエンジンとなって,IT社会における新たな活動を展開している.主な事例として,1)ホームページの一新と英語版の併設,2)婦人科がんに関する患者向けアニメーション動画の公開,3)タレントのSHELLY氏との対談記事のデジタル紙への掲載が挙げられるが,これらに共通することは公益性を念頭においた社会への発信である.さらに,会員に向けて,4)和文誌の電子ジャーナルへの移行,5)教育を目的としたウェブセミナーの定期開催とアーカイブ化した「JSGO E-academy」のホームページ上の公開,6)婦人科腫瘍診療におけるCOVID-19感染対策と実態調査の実施がある.学会の強化策として,7)婦人科以外の関連領域との連携促進による会員増加の模索,8)コロナ禍後の学術講演会の理想的な在り方の検討,さらに最大の事業である9)日本の婦人科悪性腫瘍患者の全データを掌握することを目標にしたJapan Entry System for Gynecologic Oncology(JESGO)の創設,10)創立25周年記念事業における企画書籍の出版などがあるが,いずれも次世代による斬新なアイデアである.

    第64回学術講演会(2022年7月:久留米市)の理事長講演でも述べたように,可能を不可能にしてしまう先入観に囚われない,気力,体力,知力の最も充実した若い力による,時代に相応した発想と時代を超越した奇想に託し,今や3年から5年の短い周期で目まぐるしく変動する社会において,次世代が躍進し公益性を推進する「学会のかたち」を常に展望しながら,本学会がアカデミック集団として多様な形態と大胆な創造性をもって機能することが肝要である.

  • 青木 大輔
    2024 年 42 巻 2 号 p. 42-46
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー
  • 三上 幹男
    2024 年 42 巻 2 号 p. 47-56
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー
シンポジウム1
  • 中原 万里子, 西川 忠曉, 山本 香澄, 加藤 真弓, 棚瀬 康仁, 宇野 雅哉, 石川 光也, 加藤 友康
    2024 年 42 巻 2 号 p. 57-66
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:<目的>当院での婦人科がんに対するがんゲノムプロファイリング(Comprehensive Genomic Profiling:CGP)検査の臨床的有用性を検討する.

    <対象と方法>2019年10月~2023年3月に当院でCGP検査を実施した婦人科がん症例におけるactionableな遺伝子異常とバイオマーカーの検出状況について,診療録を用いて後方視的に検討した.Actionableな遺伝子異常は患者申出療養制度を含む臨床試験への参加が可能な遺伝子異常とし,バイオマーカーは保険適用薬のあるMSI-High/TMB-High/NTRK融合遺伝子とした.

    <結果>対象症例は164例で,年齢中央値56歳(23~78歳),がん種は卵巣癌・卵管癌・腹膜癌 68例,子宮体部悪性腫瘍60例,子宮頸癌36例であった.事前のMSI-High検出例は,子宮体部悪性腫瘍5例であった.Actionableな遺伝子異常の検出例ならびにバイオマーカーの検出例はそれぞれ,全体で77例(47%)/19例(12%),卵巣癌・卵管癌・腹膜癌で32例(47%)/3例(4.4%),子宮体部悪性腫瘍で32例(53%)/12例(20%),子宮頸癌で13例(36%)/4例(11%)であった.CGP検査結果に基づく治療への到達例数は,全体で8例(4.9%)であった.

    <結論>Actionableな遺伝子異常は47%に検出され,バイオマーカーは 12%に検出されたが,臨床試験を含めた治療への到達率は4.9%であった.今後は,さらなる治療到達率の改善にむけた取り組みが必要と考えられた.

  • 角 暢浩, 奈良 亮謙, 川村 温子, 古澤 啓子, 望月 亜矢子, 高橋 伸卓, 武隈 宗孝, 平嶋 泰之
    2024 年 42 巻 2 号 p. 67-74
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:背景:がん治療における個別化医療の実践にあたり「がん遺伝子パネル検査」が導入された.がん種横断的な報告はあるが婦人科がんのみを対象とした報告は少ない.婦人科がんに対するがん遺伝子パネル検査に関して調査した.

    方法:2019年6月から2022年12月まで当院エキスパートパネル(以下EP)で検討した1,104例から当院婦人科がん症例を抽出し,がん種,検査方法,がん関連遺伝子変異の検出率,国内承認薬・治験数,EP後の治療について後方視的に検討した.

    結果:当院症例は622例,婦人科がんは63例(子宮頸癌16例,子宮体癌13例,卵巣癌22例,その他12例)と3番目に多かった.検査方法は全例Foundation OneⓇ CDxがんゲノムプロファイルであった.がん関連遺伝子は96.8%(61例)に同定され,国内承認薬は13例(当該がん種適応6例,他がん種適応8例(重複1例)(20.6%),国内臨床試験は32例(50.8%)に提示された.EPの提示治療は6例(9.5%)(国内承認薬4例,治験2例)に実施された.

    結論:婦人科がん対象のがん遺伝子パネル検査は約半数に臨床試験が提示されたが治療の到達は少なかった.

シンポジウム3
シンポジウム4
  • 宮川 知保, 加嶋 洋子, 村上 幸祐, 松村 謙臣
    2024 年 42 巻 2 号 p. 86-93
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:卵巣明細胞癌(ovarian clear cell carcinoma;OCCC)はIL-6高産生腫瘍で,腫瘍免疫に影響を与えている可能性がある.さらに臨床試験の結果から免疫チェックポイント阻害薬が奏効する可能性が示唆されている.我々はまず,高IL-6産生腫瘍を形成するOCCCマウスモデルを樹立し,抗体薬を投与して治療効果を検討した.抗IL-6抗体(a-IL-6),抗PD-L1抗体,抗CTLA-4抗体,抗IgG control抗体をそれぞれ単剤もしくは併用して治療を行ったところ,併用療法よりもa-IL-6群で有意に生存期間が延長したが(p=0.0008),併用による相加効果を認めたのは3剤併用のみであった.卵巣腫瘍の免疫細胞をフローサイトメトリーで解析したところ,a-IL-6を投与したマウスでは,腫瘍内に浸潤するリンパ球数の変化を伴わず,CD4陽性T細胞の機能低下を認め,抗体薬併用による相加効果が得られない原因の一つである可能性が示唆された.さらに,ヒト卵巣癌コホートにおける遺伝子発現プロファイルから,OCCCは高異型度漿液性癌と比較してCD4陽性T細胞のうちRORgt陽性T細胞のマスター転写因子であるRORCが高発現しており,OCCC signatureと相関していた.マウスモデルにRORgt陽性T細胞から産生されるサイトカインであるIL-17を投与すると,CD4/8陽性T細胞数がそれぞれ有意な増加を認めた.OCCCに対して,a-IL-6は一定の抗腫瘍効果を認めるが腫瘍免疫を抑制した.一方でIL-17はT細胞数を増加させるため,これらとICIの併用で相乗効果が期待できる可能性がある.

  • 岩橋 尚幸, 西岡 香穂, 八幡 環, 堀内 優子, 井箟 一彦
    2024 年 42 巻 2 号 p. 94-99
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:本研究では変異p53タンパク質により形成されるp53凝集体に着目した,全く新しい視点から見たp53変異卵巣癌の病態メカニズムの解明を目的とした.まず,卵巣高異型度漿液性癌のp53免疫組織染色を行なった.14/96例(15%)がp53核/細胞質陽性症例(N+C)であり,他群に比べ有意に無再発生存期間および全生存期間が不良であった(p<0.001).p53 N+C症例の細胞質において,タンパク凝集体形成を認識する抗体とp53の共沈着を認め,細胞質p53凝集体の存在が示された.次に,OVCAR-3細胞(p53変異あり)およびPC-3細胞(p53 null)を用い検討した.OVCAR-3の細胞質と細胞上清中にp53凝集体が発現しており,PC-3へのp53変異導入でも同様にp53凝集体が発現した.p53凝集体の細胞間伝播を確認し,p53凝集体の取り込みによりプラチナ抵抗性を獲得した.最後に,p53脱凝集剤ReACp53の効果について検討した.OVCAR-3やp53変異導入PC-3へのReACp53添加により,細胞内のp53凝集体が減少するとともに,p53が細胞質から核内に移行し細胞死が誘導され,プラチナ感受性が増強した.さらに,p53変異を有する卵巣癌患者のがん組織由来オルガノイド細胞においてもReACp53の抗腫瘍効果を認めた.本研究によりp53変異卵巣癌におけるp53凝集体の病態メカニズムの一端が解明され,p53変異卵巣癌の新たな分子標的治療の可能性が示唆された.

  • 井上 双葉
    2024 年 42 巻 2 号 p. 100-113
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー
ワークショップ2
  • 松浦 基樹, 長尾 沙智子, 黒川 晶子, 玉手 雅人, 秋元 太志, 幅田 周太朗, 齋藤 豪
    2024 年 42 巻 2 号 p. 114-117
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー
  • 近澤 研郎, 今井 賢, 桑田 知之, 今野 良
    2024 年 42 巻 2 号 p. 118-120
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:骨盤神経叢からの膀胱への神経には3つのコースがある.I:尿管に沿う,II:膀胱静脈に沿う,III:膀胱静脈と腟静脈の間の3つで,それぞれが異なったベクトルで臓器に枝を伸ばしている.IIは後層内を走行する為,広汎子宮全摘術では切断される.岡林式神経温存広汎子宮全摘術で温存すべき膀胱枝IIIは子宮枝と共同幹を持ち,共同幹は直腸腟靭帯の腹外側に接して走行し膀胱に枝を伸ばしている.2の神経は膀胱体部に枝を伸ばし,IIIの神経は膀胱背側に枝を伸ばしている.つまり,この2つの神経のベクトルを更に開き,間隙を強調すると,その間隙が腟側腔として術中に認識される.膀胱を腹側に,尿管を外側に牽引して術野を作るとこの間隙が強調され,開放が容易になる.

  • 安彦 郁
    2024 年 42 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:第III相ランダム化比較試験であるLACC trialの結果が報告されて以降,初期子宮頸癌の標準治療は鏡視下手術(MIS)ではなく,開腹手術または放射線療法となった.後方視的検討ではあるがSUCCOR cone studyでは,MIS前に円錐切除をした群で円錐切除をしない群に比べて再発率は65%以下と少なく,開腹手術群と遜色ないことが報告された.診断に円錐切除を要した症例がもともと予後良好である可能性もあるが,MIS前に円錐切除を行うことが腫瘍散布予防につながっている可能性も考えられる.

    現在本邦ではJGOG1087通称JACC studyという,腫瘍散布予防や十分な切除マージン確保,子宮マニピュレーター不使用などの条件を満たす腹腔鏡下広汎子宮全摘出術(LRH)の非ランダム化前向き試験が進行中である.JACC Studyで規定された手術方法を守ることが予後を改善するかどうかが注目される.今後は,限定された症例に対してのみLRHが行われていくことになり,腫瘍学的予後をどう担保するのか,また優れた術式をいかに継承するのかが課題となる.

    今回,自施設で行った20例のLRHを振り返る.全例で子宮を恥骨側に吊り上げて後方から尿管周囲組織を剥離して血管処理する後方ダイレクトアプローチ(Horie et al. JMIG 2021)を行った.LRH前に円錐切除を行った症例が7例であった(円錐切除群).円錐切除群は年齢が若かった(中央値40歳vs 60歳,p<0.01).また,円錐切除群は病理腫瘍径が大きい傾向(21 mm vs 10 mm,p=0.10),手術時間が長い傾向があった(488分vs 356分,p=0.11).退院時に自己導尿を要する術後神経因性膀胱が円錐切除群に1例見られた.術後再発は円錐切除群の1例で縦隔リンパ節再発と円錐切除をしていない1例で腟断端再発であり,放射線治療と化学療法で寛解した.円錐切除後のLRHでは子宮頸部周囲の血管が発達し手術手技が難しい場合があるが,円錐切除断端陰性で腫瘍が残存していなければ術中腫瘍散布の懸念がないという利点がある.また,FIGO2018のステージングにおいては,肉眼的腫瘍の有無や浸潤の幅に関係なく,腫瘍浸潤の深さでステージが変わるため,術前のステージングと術式決定においても円錐切除の果たす役割が大きくなる.LRHの治療成績の解析においては今後円錐切除の有無にも注目していくべきであると考えられる.

  • 関山 健太郎
    2024 年 42 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術において予後不良とならないために,手術操作による腫瘍の拡散を防ぐことが強調されているが,術者の意図しない切除範囲の不足を防ぐことにも留意すべきである.術者の意図しない切除範囲の不足を防ぐためには,十分な術野展開を行い,客観的な解剖学的ランドマークに基づいて切除ラインを決定する必要がある.腹腔鏡下手術で開腹手術と同等の十分な術野展開を再現するためには,鉗子による組織の牽引のみでは難しく,糸による組織の吊り上げを追加することが極めて有用である.糸による組織の吊り上げを追加することで術野が安定し,客観的な解剖学的ランドマークの認識が容易となる.子宮頸癌手術において客観的な解剖学的ランドマークに基づいて切除ラインを決定するためには,膀胱子宮靭帯前層処理,岡林の腟側腔の展開の2つの操作が最も重要である.これら2つの操作は,広汎子宮全摘術における難所とされてきたが,子宮頸部側方の血管解剖を理解して,鏡視下手術の特性を活かした再現性の高い術野展開を行うことで,安全確実に遂行できるようになる.

ワークショップ3
ワークショップ4
  • 吉田 健太, 近藤 英司, 加藤 麻耶, 榎本 紗也子, 真木 晋太郎, 岡本 幸太, 二井 理文, 金田 倫子, 池田 智明
    2024 年 42 巻 2 号 p. 142-146
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー
  • 牧野 吉朗, 宮本 真豪, 小倉 慎司, 宮上 哲, 折坂 勝, 市塚 清健, 長塚 正晃
    2024 年 42 巻 2 号 p. 147-158
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:妊娠関連がんは妊娠出産の高年齢化に伴い近年増加傾向であり,その頻度は約0.1%と報告されている.特に,妊娠中の卵巣悪性腫瘍の診断は困難なことが多く,さらにその治療に明確なエビデンスはない.当院で過去12年間に11,811分娩中3例と他院分娩1例の境界悪性腫瘍を含む妊娠関連卵巣・腹膜がん4例を経験した.境界悪性2例と悪性2例で,境界悪性2例はIA期で妊娠15~16週に患側付属器切除と大網部分切除を施行し無再発生存している.悪性1例目は明細胞癌IC1期で,妊娠13週に患側付属器切除術と大網部分切除を施行し,術後TC療法5コース施行,妊娠40週帝王切開で健児を得た.2例目は帝王切開時に偶発的に診断した腹膜癌IIB期で,分娩後よりTC療法を施行したが,診断より3年3カ月で原病死した.

    妊娠中の卵巣悪性腫瘍の診断および治療は未だ確立されていないが,妊娠中であっても非妊時と同様の手術や化学療法の安全性が証明されつつある.母体生命を最優先にしつつも,胎児への影響や患者と家族の意向も考慮し症例ごとに治療方針を決定していく必要がある.

  • 林 琢磨, 天野 泰彰, 岡田 茉子, 安彦 郁, 小西 郁生
    2024 年 42 巻 2 号 p. 159-167
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:子宮平滑筋腫は,性成熟期の女性に最も多く認められる良性の子宮間葉性腫瘍である.昨今の晩婚化や出産年齢の高齢化に伴い,子宮平滑筋腫に合併した妊娠(つまり,子宮平滑筋腫合併妊娠)の症例は,増加傾向にある.超音波診断法での検査を主とする最新の臨床学的統計では,子宮平滑筋腫合併妊娠の症例数は,全妊娠の症例の2.7~10.7%に認められると報告されている.子宮平滑筋腫合併妊娠では,妊娠中に子宮平滑筋腫の変性や捻転に伴う痔痛が認められる.また,子宮平滑筋腫の存在が,流早産や常位胎盤早期剥離,前期破水,胎位・胎勢の異常胎児発育不全など原因になることが知られている.また,分娩時には子宮平滑筋腫による産道通過障害や子宮収縮不良に伴う微弱陣痛による分娩停止が認められる.さらに,頻度は少ないが,妊娠中又は妊娠後に腫瘤が急激増大する例が認められ,このような症例では,高い確率で子宮平滑筋腫と併発している子宮平滑筋肉腫の発症が認められる.著者らは,子宮平滑筋腫合併妊娠の産後の経過観察中に急激に腫瘤が増大したため,単純子宮摘出術により子宮摘出を行った.その後の外科病理診断により,摘出腫瘍は子宮平滑筋肉腫と診断された.単独発症の子宮平滑筋腫と比較して,子宮平滑筋腫合併妊娠での子宮平滑筋腫では,有糸分裂細胞が多く認められる.妊娠環境と子宮平滑筋肉腫の発症の関連性を理解するために,私達は,子宮平滑筋肉腫自然発症モデルマウスを用いて,妊娠環境の子宮間葉性腫瘍の悪性化への関与について検討を行っている.本稿では,妊娠と悪性の子宮間葉性腫瘍の発症との関連性について,最新の医学情報を含めて解説を行う.

ワークショップ5
原著
  • 中本 康介, 友野 勝幸, 宇山 拓澄, 森岡 裕彦, 関根 仁樹, 野坂 豪, 山﨑 友美, 古宇 家正, 工藤 美樹
    2024 年 42 巻 2 号 p. 182-188
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:転移性脳腫瘍(以下,脳転移)は生存期間やQOLに大きな影響を与える.婦人科悪性腫瘍からの脳転移の発生は他がん腫と比較して稀である.今回,2008年1月~2020年12月までの間に,当院で診断,治療した婦人科悪性腫瘍を原発とする脳転移症例14例を対象とし,臨床的特徴,脳転移に対する治療,脳転移後の予後について後方視的に検討した.原疾患は子宮頸癌が3例,子宮体癌が5例,子宮肉腫が1例,卵巣癌・卵管癌・腹膜癌(以下,卵巣癌)が5例であった.単発の脳転移は4例,多発の脳転移は10例であった.単発群では手術療法を,多発群では放射線療法を中心に選択された.脳転移診断後の生存期間の中央値は子宮頸癌が2.3カ月,子宮体癌が3.7カ月,卵巣癌が32.5カ月であった.本検討では卵巣癌からの脳転移は他がん腫と比較して予後良好であった.また,単発群は27.7カ月で,多発群の3.4カ月よりも生存期間が長かった.一般的に脳転移後の予後予測にはRPA分類が使用され,今回の検討でも同様に予後予測は可能であった.脳転移は一般的に予後不良であるが,長期生存を認める再発症例が存在するため,積極的な治療も考慮される.

  • 松岡 和子, 岩屋 啓一, 藤原 有沙, 鳴井 千景, 小瀬木 輪子, 馬屋原 健司, 坂本 優
    2024 年 42 巻 2 号 p. 189-196
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:子宮頸部多発嚢胞性病変における胃型腺癌の術前診断は困難とされる.HIK1083を用い頸管粘液検査を施行した123症例を対象に胃型腺癌の術前診断の可能性を検討した.胃型粘液産生病変は19例でHIK1083検査陽性率は63.1%であった.悪性腫瘍は19例中7例[minimal deviation adenocarcinoma 4例,adenocarcinoma, HPV-independent, gastric type 2例,adenocarcinoma in situ, gastric type 1例],良性病変はlobular endocervical glandular hyperplasia 12例であった.単変量解析では胃型粘液産生病変における良悪性を鑑別する有意な因子は細胞診所見における黄色調粘液とMRI所見の拡散低下であった.多変量解析ではHIK 1083検査陽性,黄色調粘液所見,拡散低下が胃型腺癌をスクリーニングする有意な因子であった.子宮頸部多発嚢胞病変の術前診断において,HIK1083検査陽性,黄色調粘液所見,拡散低下の組み合わせが胃型腺癌を示唆する可能性が示された.

  • 豊田 進司, 伊東 史学, 中谷 真豪, 笹森 博貴, 福井 寛子, 新納 恵美子, 谷口 真紀子
    2024 年 42 巻 2 号 p. 197-204
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:子宮頸部前がん病変検出におけるコルポスコピー診療の質を測定するために品質保証指標の6項目がEuropean Federation for Colposcopy(EFC)で定められた.本研究では,これらの指標を用いて当科の成績を検討した.対象は2015年から2022年に当科外来患者に施行されたコルポスコピー1,505例とLEEPの208例である.当科の結果(括弧内はEFCの目標値)は子宮頸部細胞診の軽度異常と高度異常に対して毎年実施されるコルポスコピー数が各86.0件(50件以上),76.9件(50件以上),扁平円柱上皮接合部(squamocolumnar junction,以下SCJ)の有無の記載率が99.9%(100%),子宮頸部細胞診異常に対する治療前にコルポスコピー検査を受けた症例の割合が100%(100%),円錐切除例のうちCIN2,または,それ以上の病変であった割合(CIN2+)が85.1%(85%),円錐切除例のうち切除標本断端が陰性の割合が67.8%(80%)であった.議論の余地を残す切除標本断端陰性の場合を除き,当科のコルポスコピー管理の質はEFCが提唱する品質保証基準に達していた.

  • 前花 知果, 川口 龍二, 上林 潤也, 西川 恭平, 樋口 渚, 河原 直紀, 岩井 加奈, 山田 有紀
    2024 年 42 巻 2 号 p. 205-213
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:卵巣癌は早期発見が難しく予後不良であり早期発見が求められる.Tissue Factor Pathway Inhibitor 2(TFPI2)は,卵巣明細胞癌を高い特異度で鑑別できる腫瘍マーカーとして2021年4月に保険収載となった.保険収載後における実臨床でのデータ蓄積はまだ少ないため,卵巣癌診断におけるTFPI2の有用性を検討した.対象は保険収載後から2023年5月までの期間に卵巣腫瘍にて手術を行い,病理組織診断の確定した124例で,その内訳は良性腫瘍67例(54.0%),境界悪性腫瘍12例(9.7%),悪性腫瘍45例(36.3%)であった.良性腫瘍群と境界悪性腫瘍および悪性腫瘍を合わせた群との比較,良性腫瘍および境界悪性腫瘍を合わせた群と悪性腫瘍群との比較,明細胞癌群と非明細胞癌群との比較ではそれぞれCA125,TFPI2ともに有意差をもって鑑別可能であり,明細胞癌群と卵巣子宮内膜症性嚢胞群との比較ではCA125では有意差を認めないもののTFPI2では有意差をもって鑑別可能であった.これらの結果より実臨床においてもTFPI2は既存の腫瘍マーカー同様に有用であることが分かった.

症例報告
  • 重川 公弥, 朴 鐘明, 田崎 慎吾, 那須 洋紀, 勝田 隆博, 田崎 和人, 寺田 貴武, 西尾 真, 真田 咲子, 牛嶋 公生, 津田 ...
    2024 年 42 巻 2 号 p. 214-221
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:類上皮肉腫は稀な軟部組織肉腫で,近位型と遠位型に分類される.今回我々は,初回化学療法が著効したダグラス窩に発生した近位型類上皮肉腫の1例を経験したので報告する.症例は39歳,2妊2産.第2子分娩10カ月後に臀部痛を主訴に近医を受診し,経腟超音波断層法でダグラス窩に腫瘤を指摘された.その後の精査でダグラス窩に腫瘤性病変があり,多発肝転移,腹膜播種,横隔膜播種を認めたため,腹腔鏡下に大網の播種病変を生検した.病理組織学的に結合性に乏しい腫瘍細胞が密にシート状に配列し,ラブドイド様の細胞がみられた.免疫組織化学でINI1の完全欠失を認めたことから,近位型類上皮肉腫と診断した.がん遺伝子パネル検査で,SMARCB1/INI1の欠損を認めたことからも類上皮肉腫の診断の裏付けとなった.ドセタキセルとゲムシタビンの併用療法が完全奏効し,無病状態となった.

  • 服部 惠, 長船 綾子, 佐藤 亜理奈, 鈴木 祐子, 永井 孝, 梅津 朋和
    2024 年 42 巻 2 号 p. 222-227
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:症例は52歳,子宮頸部扁平上皮癌に対し広汎子宮全摘出術後,左閉鎖リンパ節への転移を認めIIIC 1期の診断となった.術後補助化学療法中にGrade 3の好中球減少が遷延するためPegfilgrastimを併用していた.抗癌剤投与後11日目から発熱があり,尿路感染症の診断で入院となった.各種培養検査は陰性であるがCRP上昇と発熱が継続し,造影CT検査で弓部大動脈の壁肥厚と周囲の脂肪織濃度上昇を認めた.自己免疫疾患関連検査は陰性でありPegfilgrastim誘発性大動脈炎と診断した.Pegfilgrastim投与後14日目より自然解熱し,CRPも改善したため退院となった.

    G-CSF(Granulocyte-colony stimulating factor)製剤は化学療法中の発熱性好中球減少症の治療及び予防目的に広く使用されている.G-CSF製剤誘発性大動脈炎は2004年に最初の報告があり,2018年には添付文書の重大な副作用に追記された.化学療法中の発熱は感染症を第一に疑うが,G-CSF製剤の使用歴がある場合は大動脈炎も鑑別に挙げる必要がある.

  • 加藤 雅也, 奥村 俊之, 氏平 崇文
    2024 年 42 巻 2 号 p. 228-233
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:骨盤除臓術は子宮頸癌照射野内の中央再発に対する治療法の1つであるが,手術侵襲が大きく合併症頻度も高いことから十分なインフォームドコンセントと適応症例の選択が重要である.再発子宮頸部腺癌に骨盤除臓術を実施し,異なる経過を辿った2症例を経験したため報告する.

    症例1は子宮頸部腺癌IIA2期,同時化学放射線療法後11カ月で子宮頸部に再発を認めた.化学療法を行ったがSDで骨盤除臓術を実施した.術後腸閉塞など多数の合併症を認め術後50日まで入院を要した.病理組織診断で切除断端近傍まで腫瘍細胞が散在していた為,切除断端陽性と診断した.症例2は子宮頸部腺癌IB1期,広汎子宮全摘術後1年10カ月で腟断端再発を認めた.同時化学放射線療法と化学療法で腫瘍の縮小・再発を繰り返し,3度目の再発で腹腔鏡下骨盤除臓術を実施した.腸閉塞で術後40日まで入院を要した.切除断端陰性であったが,術後5カ月で骨盤内に播種性病変を認め再発と診断した.

    腟壁浸潤治療後の骨盤除臓術では,顕微鏡的な腫瘍残存も考慮した切除範囲の決定が重要である.頸部腺癌は除臓術後に腹膜播種の再発様式をとることが多く,腫瘍細胞を飛散させない手術手技の徹底が重要である.

  • 山﨑 悠紀, 牛島 倫世, 荻野 奈緒, 生水 貫人, 三輪 重治, 山川 義寛
    2024 年 42 巻 2 号 p. 234-240
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/05/18
    ジャーナル フリー

    概要:卵巣類内膜腫瘍は全卵巣腫瘍の約20%とされ,その多くは類内膜癌であり,境界悪性腫瘍はまれである.そのため保存的治療後の妊娠についての報告も極めて少ない.今回,卵巣類内膜境界悪性腫瘍に対して,妊孕性温存治療を行い,生児を得た1例を経験したので報告する.症例は24歳女性で,右卵巣子宮内膜症性嚢胞摘出術後の経過観察中に,左卵巣に充実部分を伴う腫瘤を指摘された.内膜症から発生した明細胞癌なども考慮し,診断のため左付属器摘出術を施行した.術後病理にて卵巣類内膜境界悪性腫瘍と診断した.挙児希望があり根治術は行わず,生殖補助医療が行われた.途中2回子宮内膜ポリープを指摘されたため子宮鏡下に切除した.その後IVF-ETにて妊娠成立し,無事分娩に至った.その後も再発は認めていない.卵巣類内膜境界悪性腫瘍の予後は良いとされるが,元々の内膜症や子宮内膜病変の合併が多く妊娠予後については他の境界悪性腫瘍に劣るとされる.積極的な不妊治療のステップアップや内膜病変の評価が重要と思われた.

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