抄録
本研究は,彫刻家石井鶴三の代表作「島崎藤村先生木彫像」(藤村像)の木取り過程に残された木片端材を手掛かりとして,その制作工程をデジタルで再現し,特殊な経緯から2体存在することとなった藤村像の形成過程を解明したものである.作品および木片から採取された形状データにより,基本形,心棒という,制作上に重要な構造体が3Dデータとして復元され,その可視化を通し,それら構造体の意味と機能が特定された.更に,ここより得られた構造概念は,ムーブメントを特質とする点で,近代芸術の一傾向であるキュビスムとの原理的な一致も確認された.また,3D形状計測された藤村像2体および全木片の3Dデータを基に,最終成果物として,制作工程を再現した3Dアニメーションシステム3点が完成している.