保健医療社会学論集
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家族会における「認知症」の概念分析 : 介護家族による「認知症」の構築とトラブル修復
木下 衆
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2012 年 22 巻 2 号 p. 55-65

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抄録

本稿は、介護家族が「認知症」という専門的概念を学ぶことで、どのような道徳的規範を身につけていくのか、概念分析の手法を用いて検討する。家族会(高齢者を介護する家族のセルフヘルプグループ)とそのメンバーへの調査からは、次の点が指摘できた。第一に、「認知症」という概念は、介護場面のトラブルを修復する上で要介護者を徹底して免責する。第二に、会のメンバーにトラブル修復の責任が帰属される場合、彼らは「(要介護者は)理屈は通じないが、感情はわかる」という前提のもとで対応する。それにより、「説得/否定の禁止」と「笑顔」という具体的な行動の指針が設定される。第三に、以上二点の帰結として、認知症を患う要介護者本人は、悪意や敵意のない無垢な存在として扱われる。第四に、「認知症」概念は「何が介護のトラブルか」を巡る新たな解釈枠組みとなり、会のメンバーはこれに基づいて自身が直面しているトラブルを記述する。

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© 2012 日本保健医療社会学会
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